25.6.8『王たちの流儀』Vol.3:磯野大

語りあう

磯野大が語る王ステ 『黎明の王』を振り返る

『王たちの流儀』第三弾は、磯野大さんが登場。

シリーズ四作目からの参加ながらも、圧倒的な存在感で物語を動かしてきた。

 

物語の、そして舞台の真ん中に立つ彼に『王ステ』とはどう見えていたのか、一緒に見ていこう。

――まずは『黎明の王』から振り返らせていただきます。オファーを受けた際の印象はいかがでしたか?

 

磯野大:オファーをいただいた時は、正直、役名を「ジェリコ」と聞いただけでした(笑)。

(脚本の)吉田(武寛)さんが、某珈琲店にいて、ひらめいたのが「ジェリコ」だ、という。本当か嘘か分からないんですけど(笑)。

 

ただ、吉田さんとは『王ステ』以前にも別の作品でご一緒させていただいていて、どういう方なのかも存じ上げていたので、きっと現場に行けば大丈夫だろうと思っていました。

 

――現場の雰囲気はいかがでしたか?

 

磯野:やはりシリーズ作品の第四作目でしたからね。佐藤弘樹さん、鵜飼主水さんを筆頭に、「前に前に行こう」「もっとよくしよう」という意識が強くて、現場の雰囲気がとてもよかったんです。その中で初参加の自分が、ジェリコという大役をいただいて、セリフも多い…。

 

稽古場に行った時の第一印象は「ちゃんと自分がここを担わないと、これまで積み上げてきたものを壊してしまうんじゃないか」という緊張と、逆に、ここでうまくいけば第五作、第六作への期待感も高められるんじゃないかという未来への希望も同時にありました。重圧が本当に大きかったですね。

――もっとも関係性の深いキャラクターが、二葉勇さん演じるニコラという従者でしたが、お芝居を作っていく中での関係性はいかがでしたか?

 

磯野:そうですね。勇さんとは別の作品ですでにご一緒している関係でしたが、最初は自分のことでいっぱいいっぱいだったんです。

 

覚えるセリフも多いですし、歌もダンスもある。どこに立って、どう喋って、どう役を作るかというのを一からやっている状態で…。なかなか勇さんとコミュニケーションが取れないまま稽古が進んでいました。

 

それが半月くらい経ってから、やっと勇さんとコミュニケーションが取れるようになってきて。勇さんは僕より先輩なんですけど、「お前のやりたいことをやって」と言ってくださって。

 

脚本でジェリコとニコラは幼い頃からの付き合いという設定なので、生半可な関係性だと浅く見えてしまう。その意味でも本当に勇さんには助けていただきましたし、寄り添ってくださりながらジェリコとニコラの関係性を少しずつ深めていってくださいました。

 

たぶん勇さんじゃなかったら、ここまでの信頼関係を築くのは難しかったかもしれません。もし年下の方だったり同い年だったり、あるいは年上でも懐の深さが違う方だったら、僕も言いたいことが言えなかったと思います。限られた稽古期間の中で、勇さんのおかげで2人の主従関係を創り上げることができました。

 

――まさに劇中のように、ニコラがジェリコをリードするような関係性が役者さん同士でもあったということですね。

 

磯野:まさしくそうでしたね。この作品がきっかけで、今でもプライベートでご飯に行ったり遊んでもらったりしています。この作品がなければ、勇さんをより深くまで知ることができなかったかもしれない…本当に感謝してもしきれないですね。

 

――作品序盤、ジェリコはヴァンパイアを研究していると言って、街に出て村人たちやヴィクター、アイヴァンと関わっていきますが、実際は違う意図があったわけですよね。その時の心境はいかがでしたか?

 

磯野:前半のミスリードのシーンが本当に難しかったんですよね。この作品の半分くらいはずっとミスリードし続けなければいけなくて、お客さんに「え!?」と思わせるための発言をしなければいけないという…。

 

もうこれは吉田さんへの僕の文句なんですけど(笑)、田中晃平さん演じるアイヴァンが“見えちゃいけない”んですよ。でも存在はしているという体(てい)で話さなければいけない。

 

この設定に本当に苦しめられました(笑)。後々の裏切りも証明しなければいけない。とにかく気にしなければいけないロジックがいっぱいあって!

 

でもみんなで相談して、吉田さんにも「時系列的にこうしないとここのミスリードが成立しないですよね」とか、色々とご相談させていただきました。吉田さんは柔軟に聞いてくださって、「じゃあこうしましょうか」と色々な選択肢を提示してくださいましたね。

 

この大逆転劇がお客さまにどう映ったかは分からないんですけど、うまくいっていれば嬉しいなと。本当に緻密に緻密に組んでいく必要がありました…バレてしまって「ああ、そうだよね」「じゃあ裏切るか」って思われちゃったらつまらないですからね。

 

そこに一番時間を割いたというか、役作りする上でももっとも注力した部分です。そこをお客さまに受け入れていただけたからこそ、今この『黎明の王』があるんじゃないかなと自分では思っています。

――『王ステ』名物の日替わりパート、「絶望」のシーンもありましたが、いかがでしたか?

 

磯野:実は当初は日替わりではなかったんです。セリフは決まっていたのですが、いつの間にか自然と始まってしまって(笑)。

 

最初は稽古場でもやっていたんですけど、いきなりアドリブを入れると何が本当のセリフなのか分からなくなってしまうので一旦やめて。その中で吉田さんが「やってみようか」と提案してくださって、みんなにも協力してもらいながら作っていきました。

 

今でこそ『王ステ』ファンの皆さまには「待ってました!」みたいな、お決まりのシーンのような位置づけにしていただいていますが、『黎明~』の時にはこんなに受け入れてもらえるとは思っていませんでしたね。とにかくお客さまに楽しんでいただけたら嬉しいなという思いと.、なんといっても勇さんが関西の方なので何をしても拾ってくれるという(笑)。その信頼関係の中で相談しながらやらせていただいていました。

 

『黄昏~』でも吉田さんが「この『絶望』と『おいしい』というセリフ、これだけは絶対に入れたい」と言ってくださって。吉田さんの脚本力は本当にすばらしいですよね。

 

――その後、中盤のブラド・ヴィンツェルと2回目の対面シーンでは、計算とは違う状況になっていますよね。ジェリコとしてはどのように演じられましたか?

 

磯野:ジェリコは瞬時に計算する、頭で作戦を立てていく人物なんですが、その中で予想外のことが起きる…たとえばニコラが「身を張ってでも守ります」と先陣を切って出てくるシーンや、主水さんが殺陣つけしてくれた戦闘シーンでも細かい仕掛けがあって、僕がビクターを刺そうとする瞬間があるんですけどそこでも従者に守られるとか。何度も計算外のことが起きて、その都度、路線を変更していく。

 

驚きながらも「ヤバい、じゃあどうしよう」と考え、結局後手後手になっていくという…。城に行った時の「なんでいるんだ」というところからオープニングが始まるのとか、本当にお客さんと同じ気持ちで「なんでいるんだろう」という気持ちでした。

 

それが『黄昏~』でも続いていて、あの2人(ヴラドとヴィンツェル)には「これだけやったのになんで勝てないんだろう」という気持ちが一生付きまとうんです。『黎明~』の一発目は「え?」で、それが「またか、またか」となって。そして『黄昏~』の最後のシーンで、海に落としたはずのヴラドが出てくる時には、もう驚きよりも「お前!!!」になるという。

 

そういうのも吉田さんが計算しているんだろうなと。ずっと「なんでいるんだよ」「なんでいるんだよ」という展開が、最後は「なんでいるんだ」じゃなくて「お前!!!」になる、この怒りというか。同じことをされているのに感情が変わって、どんどんボルテージが上がっていく感じですね。

――終盤の最終決戦で、結局従者たちがヴラド、ヴィンツェルに殺されてしまい、「消えろ」を繰り返して終わるシーンですが、あのラストの回想を含めた一連の流れはいかがでしたか?

 

磯野:あそこは、2時間かけてみんなが積み上げてきたものを、最後に僕一人のセリフで締めくくる。苦しさや悲しさ、怒り、やりきれなさ…全部を背負って舞台の真ん中で喋らなければいけないというプレッシャーがありました。

 

でも、逃げちゃダメだと思って。みんなが2時間積み上げてきたものを全部背負うつもりで。恥ずかしながら、千秋楽のカーテンコールでは舞台上で泣いてしまったんですけど、それくらい背負わないときっとお客さまに納得してもらえないなと。「お前、こんだけ仲いい人たちが死んでるのに、そんなセリフ回しじゃ胸に響かないよ」と、自分の中でずっと言い聞かせて…。

 

だからこそ背負って背負って背負い続けて千秋楽を迎えて、お客さまがスタンディングオベーションをしてくださって拍手をいただいた時に、よかった、と。

 

これはほとんど話していないのですが、最後、舞台からはけた時に、キャストの皆さんがステージ裏で列を作って待っていてくださって、ハイタッチをしながら「お疲れ!」と言ってくれたんです。その時に「あぁ、全力でやってよかったな」と思いました。本当に素敵な座組に恵まれたなと。

――素敵なエピソードですね。

 

磯野:そうなんです、それこそ服部さんとかは結構クールな方で。皆で円陣をする時でも、した後にすっといなくなっちゃうような。内面はすごく熱い方なんですけど。そんな方ですら最後は待っていてくださって、「うわぁ、本当に良かった…」と思って。

 

嫌われているんじゃないかなとか、「なんでお前が真ん中なんだよ」と思われているんじゃないかと不安だったんです。年齢的にも上の方も下の方もいらっしゃって、そういう中で生意気ながら真ん中を担うということは、本当に生半可な気持ちではできないなと思っていましたし。全力でやれてよかったなと思いました。

 

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