2024.02.01MAGAZINE咲女花劇「散る君、うららと舞い上がり、」

──殻を破る。 咲女花劇「散る君、うららと舞い上がり、」 創作レポート

ILLUMINUS、2024年の開幕は咲女花劇シリーズ待望の新作から。
稽古から本番へ、創作の全過程に携わった制作プロデューサーの視点より、レポートをお送りします。

稽古開始の約2か月前、私が台本の第一稿を受け取った際にまず真っ先に思ったのは
「これは大変になりそうだ」
という感想だった。

脚本・演出の23へも、率直にその旨を伝えたような気がする。
私が何を危惧したのかというと、「こんなにも積極的能動的に笑いを”とりにいく”本を、はたして今回のキャストたちは乗りこなすことができるだろうか……」という点だった。
そしてこの不安は早々に杞憂に終わることをまず最初に断っておきたい。

 

元お笑い芸人という肩書もある通り、台本からは脚本・演出23の『笑い』に対する造詣の深さを感じる。

特に今作は「ストーリーラインで笑いをとる」「シチュエーションで笑いをとる」「コンビネーション・アンサンブルで笑いをとる」といった手法を織り交ぜつつも、「単独で笑いをとる」という、ある種キャストにとってもっとも過酷なシステムの笑いに重きをおいているように感じた。

お笑い芸人を目指しているというわけでは決してないであろう若い彼女らキャストたちは、海千山千のお笑い界を生きた23のこの本をはたして乗りこなすことができるだろうか。私はまずそこに、一抹の不安を抱いたのだ。

私は今作が久しぶりのILLUMINUS現場だった。特に創作の前段階から携わるのは実に3年、4年ぶりのこと。

今作主演の西村菜那子と現場を共にしたこともあったが、失礼ながら彼女もまだ若かった。今も若い、そう「幼かった」と言い換えてもいい。

台本の上で騒動を巻き起こす浦うららのイメージと、演じる彼女の姿が私の頭の中でどうにもマッチしてこない。

 

23との現場歴も数多い舞台監督の丸山直己に、台本の感想を伝えてみた。

返ってきた言葉は「大丈夫っすよ」カラッとそう答えた。プロデューサーの小宮山氏にも様子をうかがう。「大丈夫です。23とキャストを信頼しておりますので」。

近年の23と西村菜那子のコンビをよく知る二人の言葉からはなんの不安もなく、むしろ前のめりに期待する意気を感じる。プロデューサーと舞台監督がそういうのだ。私も信じねばなるまい。

期待と不安とがないまぜのまま、私はチケット発売へ至る仕事を進める。
作品の方向性にとって重要なメインビジュアルのデザイン打合せが行われた。この場で23が言った言葉が、結果として今も心に強く残っている。

「殻を破りたいんですよね、作品の中身も、キャストも、もちろんデザインも。
これまでのILLUMINUSをある意味『破壊』するような。イメージを覆していきたい」

「これまでの雰囲気と違うような」
「アンビバレンツに」
「キレイに落ち着くことなく」

 

打ち合わせで交わされたフレーズを起点に生まれたメインビジュアル。これまでのILLUMINUSに無いテイストに仕上がった。

 

2024年、新年が開けるとともに稽古が始まった。
シリーズ前作からの続投キャスト、ILLUMINUS作品「TOKYO COL-CUL COMEDY」や≪落語シリーズ≫で23作品に触れた経験を持つキャスト、そして今回初参加のキャストたち。出自も活躍の場も少しずつ違う彼女たちが集い、初々しくそれぞれ挨拶を交わし、初読み合わせに入る。

開口一番だった。
主演の西村菜那子が相好も体裁も、ともすれば演技のセオリーすらも無視して【浦うらら】の第一声を放った。
面白い。

見よ、この勇気。この度胸。
初対面のキャストもいる、スタッフもいる、なにより初読み合わせだ。恥じらいもあるだろうし、まずは遠慮や様子を見て当然のタイミングである。西村菜那子はあえてそれを見事にすべて”外した”のである。

プロデュース公演の創作の場というのは作品ごとに雰囲気が変わってくるものである(そしてそれがプロデューサー目線で面白いのだが)。

メンバーやスタッフによってキリっとメリハリの効いた場になることもあれば、ジョークを飛ばしあって笑いが絶えない場になることもある。

その中心には常に「作品の空気をつくる人」がいて、それは演出家だったり、演出助手だったり、俳優のうちの一人だったりするわけだが、西村菜那子は開口一番、セリフ一発でこの「散る君、うららと舞い上がり、」稽古場の雰囲気を決定づけてしまった。

この作品は気負う必要なんかなく、自由な発想とちょっとの勇気で創作にあたって良いのだ、ということを。

この「自由と勇気」の稽古場の雰囲気は、23の掲げた「殻を破る」というテーマにも大きな影響をもたらした。

「こんなわたしが見られるのはこの作品だけ」と口にしたキャストも多数いた。まさに自らの殻を破って新しい、自分の中の別の魅力を発揮しているのを実感しているのではないだろうか。

 

愚直なまでに貪欲に笑いを”とりに”いく。ときにはなりもふりもかまわずに。
そのさまを見て私は不安を抱いた自分を恥じた。彼女たちを侮っていた。心から謝罪を申し上げなければならない。誠に申し訳ない。

彼女たちキャストの勤勉さも、しかと書き残しておかねばならない。セリフを初日から覚え、稽古動画を日々繰り返し確認し、規律を持って稽古に臨む。

順調かつ有意義に進行する稽古は時間的余裕を生み、演出助手の作井麻衣子がスケジュール繰りで逆に困ってしまうほどであった。キャスト一人ひとりの意識の高さのなせることである。

またここでも西村の牽引力は注目に値した。そこには私の中に残っていた幼い西村菜那子像は完全に消え去り、主演として、座長として、皆を大いに引っ張る。

キャストもスタッフも彼女の推進力を得て、前へ前へ、創作が進行する。まだ千穐楽までステージは残るが、素晴らしい座長であったことは間違いない。

私自身様々な場面で助けられた。ありがとうございました。

そして1月31日、ゲネプロ。
彼女たちがこれまで稽古で培ってきた結晶が披露された。稽古場から劇場へ、環境の変化は当然あるが、誰一人、特段困った様子もない。

充実した稽古の賜物である。ゲネ終演後、最後のフィードバックが23から送られた。「たくさん練習したから大丈夫。自分と、みんなを信じていこう」

23の「殻を破りたい」という言葉から始まった「散る君、うららと舞い上がり、」は、おそらく言った23自身の思惑以上の”破壊”があったのではないだろうか。

笑いが巻き起こる初日ステージの観客の声をロビーで聞きながら、私はこの文章を書いている。かつては不安を抱いた私も、ゲネプロを見た今は確信に変わった。殻を破った彼女たちの活躍をぜひ劇場でご覧いただきたい。

制作プロデューサー
佐野木雄太

咲女花劇「散る君、うららと舞い上がり、」公演概要

咲女花劇「散る君、うららと舞い上がり、」
脚本・演出:23
2024年1月31日(水)~2月4日(日)
六行会ホール

 

▼Introduction
ILLUMINUSがお送りする花とエンタメで人の心と心を紡いでいくシリーズ第2弾

 

▼Story
『喪服は脱ぎ捨てろ!狂乱に送り出してご覧に入れましょう!』

世界一明るい葬儀屋【うらら】に一つの依頼が。

生きることを諦めた、傲慢で孤独な「まりぃ」
『私の葬式を私がプロデュースするから!』

「うらら」が伺い、一緒に葬儀を作り上げていく。
のだが、そうはうまくは行かない…。
うららの提案で、集められたのは、
縁もゆかりもないエキストラの面々…。

お花の準備で呼ばれた
お花屋さん【ふわら】のアルバイト「りのこ」は
またまた振り回される始末…。

始まりと終わりの狭間で繰り広げられる
ドタバタワンシチュエーション感動喜劇!

果たして依頼人は無事天国へと旅立てるのか?
華麗に逝ってらっしゃいませ!

 

▼公式サイト等
公式HP:http://www.shoujo-kageki2-urara.com
公式X(旧ツイッター):https://x.com/Sakukoe_Fuwara?s=20

 

▼キャスト
西村菜那子

木戸衣吹
工藤理子(STU48)
奥村優希(×純文学少女歌劇団)
小日向美香
庄司芽生(東京女子流)
赤坂麻凪
播磨かな
黒崎澪
江益凛

植野祐美

▼上演スケジュール
2024年
1月31日(水) 19:00
2月1日(木) 19:00
2月2日(金) 14:00/19:00
2月3日(土) 13:00/18:00
2月4日(日) 12:30/16:30

 

▼会場
六行会ホール
(〒140-0001 東京都品川区北品川2丁目32−3)

 

▼チケット
https://t.livepocket.jp/t/hxvd1

 

▼スタッフ
脚本・演出:23

舞台監督:丸山直己
舞台美術:宮坂貴司
照明:山岡茉友子
音響:小林勇太(TCOC)
衣装・メイク:神愛実

制作・グッズ進行・票券:田邊樹(AOL)
制作・進行管理:佐野木雄太(Cuebicle/アガリスクエンターテイメント)
稽古場・楽屋制作:佐伯凛果(アガリスクエンターテイメント)

キャスティング:久堀守
プロデューサー:小宮山薫/佐野木雄太

 

■協力(五十音順)
CANVAS
S
STU
エイベックス・マネジメント
スターダスト
ツインプラネット
ホリプロインターナショナル

Cuebicle
TCOC
アガリスクエンターテイメント