2025.08.12MAGAZINE舞台「葬列の王」

人生という名の旅路、その終着点に見たもの-「葬列の王」観劇レポート

実在したとされる歴史的事件をモチーフに、ファンタジー要素を加えつつダークな世界観で描かれるオリジナル舞台シリーズ「王ステ」。その第7弾となる舞台「葬列の王」の観劇レポートをお届けします。

 

舞台「葬列の王」全体写真

緩急自在の構成が観客を惹きつける

今作は、17世紀末のプロイセン王国・ベルリンが舞台。他者の人生を終わらせる死刑執行人「フランツ」の一生を通じて、彼を取り巻く人々と自分自身の「死」に向き合い続ける物語である。シリーズが一貫して描いてきた「死」というテーマに、より深く踏み込みながらも、不思議と「光」を感じさせる作品であった。本記事では、その理由を深掘りしつつ、見どころを紹介する。

ダークなテーマを扱いながらも、構成は観客の集中を途切れさせない工夫に満ちていた。「死刑執行人」という重々しい響きとは裏腹に、死刑執行のシーンはミュージカル調の明るい曲調で展開。まるで、そういう趣のショーを観ているかのような感覚に陥る。

 

舞台「葬列の王」フランツ 写真

 

中でも、フランツが初めて罪人の首をはねる場面が印象的だ。一歩一歩大地を踏みしめるようなテンポの音楽は、まるで冒険に向かうかのよう。それは残酷な処刑というより、宿命を受け入れるための神聖な儀式のように描かれる。剣を振り下ろす瞬間には、罪人の処刑であると同時に、自らの運命という旅路への一歩を踏み出したかのようだ。

しかし、儀式を終えたフランツの表情は一転、感情が渦巻く暗い影に覆われる。この凄まじい緩急こそ、本作の醍醐味の一つと言えるだろう。

物語の中盤には、ヴェルナーやフーゴといった個性的なキャラクターたちによるコミカルなやり取りや、客席から思わずクスッと笑いが漏れる「日替わり」シーンも挟み込まれる。重厚なテーマを描きながらも軽妙なシーンを差し込むことで、エンターテインメントとしての矜持を忘れない。

シリアスに描きすぎず観る側の心理の負担を限りなく減らそうとする、その配慮にまず頭が下がる思いだ。歌やダンス、アクションをふんだんに取り入れた「王ステ」シリーズの真骨頂が、そこにはあった。

 

舞台「葬列の王」全体写真

闇と光のコントラストが生む、絵画的空間

演出の巧みさも、本作を語る上で欠かせない。物語は、中央にベッドが一台置かれただけのシンプルな空間から始まる。しかし、その静寂を破るようにステージの頭上や両サイドから光が交錯し、一瞬で心を奪われる。

シリーズ通して作・作詞・演出を手掛ける吉田武寛氏は、以前のインタビューで「奥行きが感じられる黒いセット」へのこだわりを語っていた。黒を基調とした舞台に差し込む光のコントラストは、どの瞬間を切り取っても、まるで舞台全体が一枚の芸術作品として成立しているかのようだ。

 

舞台「葬列の王」全体写真

舞台セットもまた、この作品の見どころの一つだ。複数の赤い柱のようなオブジェが巧みに組み替えられ、ある時はフランツの家に、またあるときは賑やかな酒場や厳粛な教会へと姿を変える。このセット転換は、シーンの切り替えをテンポよく進めるだけでなく、観客の想像力を掻き立てる。

 

橋本真一が体現する、フランツという男の魂

今作の主役「フランツ」を演じるのは、橋本真一。彼のこれまでの朗らかなイメージを知る人ほど、今作で一見真逆の雰囲気を持つ、憂いを帯びた重々しい役柄に驚かされたことだろう。しかし物語が進むにつれて、このフランツという役は、橋本自身の持つ「素直さ」や「優しさ」があってこその役だと腑に落ちる。

 

舞台「葬列の王」フランツ 写真

物語は、フランツが「巡礼の旅」と称して、自らの人生を幼少期から現在へ振り返る形で進む。特に、幼少期のフランツが見せる屈托のない笑顔は、橋本本来の明るさと重なる。この笑顔があるからこそ、我々はフランツをただ冷徹な人間ではなく、その魂の根底には温かさを持つ人物だと知る。

自分の与えられた運命に苦しみながらも、真っ直ぐに生き続けるフランツという人物像に、橋本の本来性が見事な説得力を与えていた。それにしても、声色や表情、佇まいだけで、無邪気な少年期から宿命を背負った青年期までを演じる芝居に、役者としての地力の強さを感じずにはいられない。

 

視点の転換が暴き出す物語の全体像-深化する「王ステ」の世界

フランツの「巡礼の旅」を追体験し、観客の没入感が最高潮に達する物語の後半。すっかりフランツの視点で物語を見つめている我々は、ある瞬間にハッとさせられる。シリーズを語る上で忘れてはならない二人の人物、不死者であるヴラドとヴィンツェルの視点が差し込まれる瞬間だ。

シリーズ全作品に登場し、悠久の時を生きる彼らの目を通して見ると、フランツの壮絶な人生もまた、彼らが通り過ぎていく一つの物語に過ぎないことに気づかされる。それまで主観的にフランツに寄り添っていた我々の視点は、一気に客観的なものに転換させられるのだ。まるで壮大な劇中劇を見せられたかのような感覚に、「面白い……」としみじみ感嘆の声が漏れそうになった。この巧妙な構造こそ、5年目を迎える「王ステ」シリーズの深みなのだろうと恐れ入る。

 

舞台「葬列の王」ヴラド 写真

 

舞台「葬列の王」ヴィンツェル 写真

 

もちろん、ヴラド役の佐藤弘樹とヴィンツェル役の鵜飼主水が放つ風格、そして二人が織りなす連携抜群のアクションも健在だ。後日、佐藤と鵜飼は主演・橋本の番組にゲスト出演した際、二人の連携について「どう動くかはあらかじめ決めず、チェスのように『相手がこう動いたから自分はこうする』」と、その場で生まれる感覚を大事にしていると語っている。二人が醸し出す絶妙な空気感は、計算では生み出せない「信頼」から成るものだと納得した。彼らの存在が、フランツ個人の物語を、より普遍的な「人間の生と死の物語」に昇華させている。

 

死を描いて、生を照らす

冒頭で、本作は「死」を描きながらも「光」を感じさせると言った。その本質は、ラストシーンでも鮮明に描き出される。フランツの人生における数多の分岐点、そのすべてがこの一点に収束するのかという驚き。彼の人生のすべてが、この結末への「序奏」だったのだと思わされる。「ああ、私たちはこの瞬間を見届けるためにいるのだ」と、そう確信できる至高の観劇体験がそこにはあった。

フランツは苦しみながらも、ひたむきに日々を生き抜いた。その姿は「死」という重いテーマの中に、一本の「光」を感じさせるものだった。これは、死を描くことで、逆説的に「生きること」の尊さを力強く描き出した物語なのではないか。「今」を生きる我々にとっても、深い気づきを得られる作品だ。彼らが見届ける「生と死」の在り方をぜひ目撃してほしい。

舞台「葬列の王」全体写真

 

舞台「葬列の王」写真

「葬列の王」公演概要

【公演名】
舞台「葬列の王」

【作・作詞・演出】
吉田武寛

【音楽】
hoto-D

【Story】
18世紀を迎えた頃、秩序が失われたベルリン。
罪人、異端者、魔女といった死刑囚を火刑、斬首、車裂き、様々な方法で、多くを処刑した死刑執行人フランツは、贖罪の巡礼へと出ようとしていた。
過去を洗い流し、新しく生まれ変わって、日々を白黒からバラ色へと変えるのだ。
ところが、死刑場で起きる悪夢のような出来事に辺りは騒然となる。
死者と不死者、悪魔、バラ色の世界。
巡礼の旅が始まるー。

【出演】
橋本真一
佐藤弘樹
鵜飼主水
日向野祥
輝山立
大谷誠
鈴木祐大
中村龍介
真野拓実
高岡裕貴
二葉勇(TWiN PARADOX)
二葉要(TWiN PARADOX)
米原幸佑

〈サーヴァント〉
天戸拓磨
佐々木太一
長田泉里
中谷優斗
峯孝仁
竜崎新大

【「王ステ」公式HP】
https://kingstage-series.net/

【公式X】

https://twitter.com/ou_stage
#王ステ
#葬列の王

【お問い合わせ】
contact@illuminus-creative.net
(ILLUMINUS運営事務局)

【企画・製作】
ILLUMINUS

舞台「葬列の王」ディレイ配信詳細


通常編集版
配信日時:8月13日(水) 10:00~8月20日(水) 23:59

配信プラットフォーム:ZAIKO

配信価格:3,500円

配信ページURL:https://illuminus.zaiko.io/e/souretsu

 

マルチアングル
配信日時:8月31日(日) 10:00~9月7日(日)23:59

詳細は後日公開

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