25.4.23宮沢賢治と交わす静かな対話

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『銀河鉄道の夜』を原案とする「Express」に向き合う中で、HIDETAKE TAKAYAMAは宮沢賢治の言葉と静かに“対話”を重ねていた。

純粋さと矛盾、宗教観と死生観──作品の内に秘められた深層を読み解く過程で、音楽家として、そしてひとりの人間として感じた想いとは何だったのか。

さらに、宮沢賢治という人物の“人間的な魅力”に迫るトークも交えながら、「普遍的な愛」や朗読劇の自由な解釈について語られた、静かで熱い対話の記録。

 

■メンバー
HIDETAKE TAKAYAMA(音楽)、吉田武寛、(脚本・演出) 、佐藤弘樹(俳優) 、小宮山薫(舞台プロデューサー)

宮沢賢治と交わす静かな対話

──対話を通して向き合う音楽と人生

 

小宮山:HIDETAKEさんは、『銀河鉄道の夜』を読み返しながら、まるで宮沢賢治と対話しているような気持ちで音楽に向き合っていたと伺いましたが、制作にどんな心境で取り組まれているのかをあらためてお聞きしてもよろしいでしょうか?

 

HIDETAKE:正直なところ、はっきりとは分からないんですが、調べてみると『銀河鉄道の夜』って宮沢賢治が20代の頃、まだ若いうちに書いた作品なんですよね。賢治自身も長くは生きられなかった人で、僕よりもずっと若い年齢で亡くなっていて。そのことを思うと、何とも言えない感覚があります。

 

物語の中で語られるのはジョバンニや他の少年たちのセリフなのですが、読んでいると、普段自分が悩んでいたり、うまく言葉にできなかったりする想いとリンクする瞬間が多くて。たとえば、「何かを言いたいけど言えないジョバンニ」とか、「度胸が出なくて踏み出せないジョバンニ」とか。

 

そういう姿に、ニューヨークでの生活のなかで自分が感じていた葛藤を重ねてしまうんです。

 

これははたして、宮沢賢治自身がそういう想いを込めたのか、それとも子ども向けに物語として“翻訳”した結果なのか。その真意は分からないけれど、だからこそ、読みながら自然と“思いを馳せる”ことができる。

 

そういう距離感から、自分の生活と重ね合わせて音楽を作っていけるというのは、とても心地よい感覚です。

 

宮沢賢治の作品って、宗教観の強さや死生観が色濃く出ていると感じるんですよね。特に最近は、自分が関わる仕事やいただく企画のテーマにも、自然と“死生観”のようなものが含まれていることが多くて。

 

きっと自分の音楽性や感覚が、そういうテーマと相性がいいんだと思うんです。だから『銀河鉄道の夜』を読み返してもしっくりくるし、自分にとっても自然に共鳴できるものがある。

 

7年前と比べて、今の自分の活動や考え方が、より『銀河鉄道の夜』の世界観に近づいているような気がしています。

 

そしてあの作品の中で繰り返し立ち上がってくる、「本当の幸せって何だろう?」という問い──。

 

それは、宮沢賢治が読者に向けた一番深いテーマであり、自分自身もずっと考え続けていることだと思います。どんなできごとに直面しても、どんな心境のときでも、最終的にはその問いに立ち返っているような気がしていて…きっと多くの人にとっても、そうなんだと思います。

 

小宮山:どの時代の人も普遍的に向き合っているということですよね。

宮沢賢治をめぐる雑談から──“純粋さ”と“矛盾”の魅力

── ユニークなエピソードとともに語る、人間としての賢治像

 

佐藤:すこし別の話をしてもいいですか?実は僕自身、別の作品で宮沢賢治を演じたことがあるんです。

 

その作品では、宮沢賢治をはじめとする文豪たちが現代に現れて、それぞれが自分の生きてきた時代や人生について語るという、少しファンタジーの要素を含んだ構成になっていました。

 

HIDETAKE:おもしろいですね。

 

佐藤:その作品の中で感じたのは、文豪って意外と“人間的にちょっとクセが強い人”が多いということでした(笑)。たとえば中原中也なんかは喧嘩っ早くて、お酒にもかなり溺れていた、なんてエピソードもあるんです。そういった、いわば少しネガティブな側面をあえて笑いに変えて描く、というのがその作品のテイストでした。

 

宮沢賢治も例外ではなく、彼についても「生涯童貞だった」というような逸話が取り上げられていて…。

 

HIDETAKE:ああ、そうなんだ(笑)。

 

佐藤:そうなんです。宮沢賢治は生涯童貞だったと言われていて、しかも“春画”を2万枚ほど所持していたという逸話もあるんですよ。つまりは、ずっとエロ本を集めていたという(笑)。それでいて、学校の先生でもあったわけですから…なんだかそのギャップがすごくおもしろいというか、人間的ですよね。

 

僕自身、そういう一面を知って、彼のことが少し身近に感じられたというか。文豪って、やっぱりこういう人が多いなと思ったんです。純粋であるがゆえに、感性が鋭くて、そういった“純”の部分から作品が紡がれていったのかなと考えることもあります。

 

議論が多い人物でもあったようで、作品に登場する「どっどど どどうど どどうと どどう」みたいな、風の又三郎のリズム感のあるセリフとか、きっと彼の中にはいつも“体内に渦巻くリズム”のようなものがあって、それを文章に表現していたんじゃないかと思うんです。

 

鬱屈した感情を抱えたまま、それを物語という形で発散していた人なのかな、と。

 

HIDETAKE:こういうキャラクター設定って、演じる上で事前にリストみたいなものがあったんですか?

 

佐藤:ありました、ありました。他にも太宰治など、6人くらいの文豪が登場する作品だったんですけど、僕は“ゲスト枠”として日替わりでいろんな文豪を演じる構成だったんです。

 

作品全体としては、文豪たちの“ネガティブな部分”をあえて笑いに変えて見せるようなコンセプトで。たとえば「お前、そんな過去があるくせにえらそうなこと言ってんじゃねーよ!」みたいなツッコミが入るシーンもありました。

 

もちろん笑いだけではなくて、「宮沢賢治は、じつはこういうことを考えていた人なんだよ」ということを、本人の口から語らせるようなシーンもありました。単純に“純粋な少年のような人物”という印象とはまた違った、人間味のある一面を感じられて、すごく面白かったですね。

 

小宮山:宮沢賢治については、この中で佐藤さんが一番理解してるかもしれないですね。

 

佐藤:いやあ、おもしろかったですよ。ファンの方の中には、仙台の方まで訪れて、生地を巡ったりする方もいらっしゃったみたいです。

 

HIDETAKE:すごいですね。

 

佐藤:そうなんですよ。また、隠していたわけではないらしいんですけど、「同性愛者だったのでは?」という説もあって。とにかくエピソードがてんこ盛りというか、人物像としての“設定”がものすごく多層的なんです。

 

HIDETAKE:たしかに。『Express』もそうですけど、同性愛的な視点や、そうじゃない視点──どちらにも読み取れるようなつくり方をしていますよね。

 

たとえば、ミュージックビデオのラストでジョバンニがカンパネルラをハグして、そのまま突き落とすシーン。あれも、見る人によっては「友情ではなく、本当に“好き”だったんじゃないか」と感じる人もいると思います。

 

そういう感覚って、“男女の枠を超えた愛情”なのか、あるいは“無償の友情”なのか──そのあいまいさがおもしろいですよね。明確な答えはなくて、観る人の解釈にゆだねられている。その自由さが、作品の魅力だと思っています。

 

小宮山:本当に、あのシーンはさまざまな見方ができる場面ですよね。ジョバンニとカンパネルラの関係性をどう捉えるかで、感じ方が大きく変わる。

 

HIDETAKE:そうなんです。原作を読んでいても、ジョバンニのカンパネルラへの視線や、カンパネルラのジョバンニへの優しさ──そのひとつひとつがすごく“愛”に近いものを感じるんです。

 

ただ、それが友情としての愛なのか、恋愛的な意味を持った愛なのかは読み手によっても変わる。だからこそ、“愛情”という言葉がしっくりくるけれど、どういう種類の愛かは決めつけられない。

 

賢治が描きたかったのは、そういう“普遍的な愛”だったんじゃないかなと、僕は解釈しています。

 

小宮山:今回、脚本を書き下ろされた吉田さんは、2人の関係性についてどのように創り上げていく予定ですか?

 

吉田:それはもう、1回しかない稽古で、キャストがどう演じるかによって決まるところも大きいですね(笑)。

 

小宮山:確かにそうですよね。声優さんたちも、それぞれ演技のアプローチやスタイルが全然違うので、1回の稽古でどう仕上がってくるのか…楽しみでもあり、ちょっと不安でもあるというか(笑)。

 

HIDETAKE:僕自身、朗読劇に関わるのは今回が初めてなのですが、やっぱり視覚ではなく“耳で楽しむ”という感覚が強いですよね。そうなると、舞台上に演奏家がいるという話ともつながりますが、観客は実際に何を“見る”んだろう? 声優が話しているその姿を観ているのか、それとも頭の中に浮かぶ情景を観ているのか……。

 

小宮山:声優ファンの方々にとっては、やっぱり“生で演じている姿”を観られるというのはすごく贅沢なことなんだと思うんですよね。楽器隊のパフォーマンスも含めて。 

 

HIDETAKE:声優の方々って、普段はアニメーションなどの“声”を担当されているわけじゃないですか。だから、実際に“喋っているところ”をお客さんに見られているというのは、どういう感覚なんですかね?

 

小宮山:本当ですね。それはご本人に聞いてみたいですよね。

 

HIDETAKE:知らないことがたくさんあるので、リハーサルが始まってからのお楽しみですね。 

 

 

Next→言葉と音の“セッション”をめざして

 

Reading Concert「Express」2025 公演概要

■日程:2025年5月3日(土)昼公演 14:00開演 / 夜公演 19:00開演
■会場:シアター1010(東京都足立区千住3-92 千住ミルディスⅠ番館 11階)
■出演:村瀬歩、小林裕介、富田麻帆、榊原優希、佐藤弘樹 ほか
■音楽:HIDETAKE TAKAYAMA
■脚本・演出:吉田武寛
■公式HP:https://www.reading-concert-express2025.com/
■企画・制作:ILLUMINUS

 

〈チケット一般発売中!〉

チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2507743

カンフェティ
https://confetti-web.com/events/7203

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