2026.10.15MAGAZINE舞台『黒の王 -Revenge-』

『黒の王 -Revenge-』観劇レポート|その出会いは悲劇の幕開けか、伝説の始まりか

 

ILLUMINUSによる「誰も救われない、誰も報われない物語」をキャッチコピーに、血塗られた実在の悲劇をモチーフにして描かれる“女王ステ”シリーズ。その男性俳優版「王ステ」シリーズは2020年10月のコロナ禍真っ只中に誕生し、そのエンターテインメント性で多くのファンを虜にしてきた。

そんなさまざまな悲劇の“王”たちを描いてきた本シリーズが、こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて『黒の王 -Revenge-』と銘打ち、シリーズ第1作目をセルフリメイク。前述の通り、コロナ禍も相まってシリーズの途中からファンになった方々も多いだけに、待望の再演でもある。本記事では、第1作目との違いにも着目しつつ、今作の魅力を掘り下げたい。

 

 

ヴラドとヴィンツェル――永久に続く主従関係が結ばれた瞬間

物語のモチーフになっているのは、15世紀のトランシルヴァニア地方の英雄、ヴラド3世――通称“串刺し公”。その生き様、そして死に様には諸説があり、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラ伯爵のモデルの一人としても知られている。

舞台はオスマン帝国とハンガリー王国に挟まれた小国・ワラキア。君主のヴラド2世(演・中村龍介)は強大な軍事力を持つオスマン帝国との関係維持のために、2人の息子、ヴラド3世(以下、ヴラド/演・佐藤弘樹)とラドゥ(演・中島礼貴)を差し出さざるを得ず、幼い2人は人質として敵国に送られる。

劣悪な環境の中でも「いつか父が迎えに来てくれる」と強く信じるヴラドと、父に対して懐疑的な弟のラドゥ。そこに、オスマン帝国の次期皇帝・メフメト2世(演・米原幸佑)がやってくる。メフメトと交流し、彼に絆されていくラドゥに対し、底知れない恐怖を覚え、距離を置きたがるヴラド。無邪気なラドゥ、親切なようで威圧感を隠しきれていないメフメト、その2人の間で板挟みになるヴラド。初演から続投しての出演となった3人のヒリヒリとしたやりとりが、この先に起こる悲劇を予感させる。

やがて、父・ヴラド2世暗殺の知らせが届き、希望が途絶えたヴラドは打ちひしがれる。そこに現れたのは、父の付き人をしていたヴィンツェル(演・鵜飼主水)という男だった。父の後を継ぎ、ワラキアの君主となることを決意したヴラド。そんな彼に対し、ヴィンツェルは「これからわたしはあなたに仕え、こうお呼びしましょう。マリアタ」と微笑む。「王ステ」ファンにはお馴染みの“マリアタ(=my lord)”という言葉が初めて発された記念すべき瞬間である。

 

 

 

『黒の王』初演から6年、空間と映像が拡張する絶望のスケール

今作を観て強く感じたのは、「初演の時点で完成されていたドラマの芯はそのままに、それを表現する器となる劇場空間と演出がスケールアップした」ということだ。初演との大きな違いとして、プロジェクションマッピングを使用した映像演出が使われている。

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロは、舞台面はもちろん、舞台の側面の壁までマッピングを投影することができるため、空間を広く利用したダイナミックな映像が、壮大な世界観を盛り上げていた。この広い空間は、運命に翻弄される彼らが置かれた巨大な“チェス盤”のようでもあり、ヴラドが抱える孤独の深さや、容赦無く迫り来る炎の絶望感が、視覚的にも客席を包み込んでいく。

さらに、サーヴァントと呼ばれる、いわゆるアンサンブルキャストの人数も初演の倍に。殺陣やダンスといったパフォーマンスも全体的に厚みが増し、より残酷に、華やかに、血塗られたヴラドの半生が描かれていく。

初演との違いといえば、ハンガリー王国の摂政・フニャディ(演・工藤大夢)は随分とキャラクター性が変わっていた。初演では尊大な態度が目立つ横暴な男だったが、今作ではナルシストでマイペースな美男子で……だいぶ変態性が増していた。非常にクセの強いテーマソング『フニャディLove』まで与えられており、初演から観ているファンは驚いたことだろう。

 

 

 

ハンガリーで再会した従兄弟・シュテファン(演・輝山立)、フニャディから譲り受けた付き人のサリフ(演・飯島颯)、今作の良心ともいえる2人が仲間に加わることになり、フニャディを説き伏せたヴラドは、彼の支持を受けワラキア公の座を取り戻す。

かつての父と同じ立場に置かれることになったヴラドは、ヴィンツェルに父・ヴラド2世はどのような人物だったかを尋ねる。素晴らしい為政者だったと褒める一方で「とても弱い人だった」とも語るヴィンツェル。ヴラドは、かつて父と弟と過ごした日々のことを――ラドゥが父に「また“夜の森”に行くの?」と不安そうに尋ねていたことを思い出す。父は立派な為政者だった、はず……ヴラドの中の父の姿がわずかに揺らぎ始める。中村演じるヴラド2世の二面性が、物語の中のいいサスペンス要素となっている。

 

 

一方でオスマン帝国では、黒死病によりスルタン(皇帝)が亡くなり、メフメトが帝位に就くことに。「仕方がない」と言いつつも、不敵な笑みを浮かべるメフメト。

そんな彼を慕い、崇拝するザヒル(演・木村優良)は今作からの新キャラクターで、好戦的かつダイナミックな殺陣が見どころだ。倍増したサーヴァントたちを巻き込んだ迫力の戦闘シーンは、彼の確かな存在感を際立たせていた。そんなザヒルは、とある人物と因縁もある様子で……?

 

 

初代“イケメン”はあの人!魂を揺さぶる楽曲群が導く悲劇の幕開け

晴れてワラキア公になったヴラドだが、3年と持たず退位となる不安定な情勢が続いていたワラキア君主の座は、高慢で利己的なディミトリエ(演・真野拓実)ら貴族たちに舐められていた。

貴族たちの横暴は平民にも及び、商人のミハイ(演・二葉勇)とティボル(演・二葉要)も本来は王宮に納めるはずの品物を貴族たちに安く買い占められてしまい、途方に暮れて報告に来る始末。「王ステ」シリーズ常連のキャストである二葉兄弟が今回はこの位置で登場するのか、という意外な采配も注目どころだ。

 

 

 

さらに問題は自国内だけではなく、ヴラドのもとに、オスマン帝国に奉納金を収めるよう、兵隊長のラマザン(演・高岡裕貴)とその部下・シャルーク(演・桐田伶音)がやってくる。

ヒール役かと思いきや、どこか憎めないこのラマザンと、ヴラド&ヴィンツェルのコントのような化かし合いは初演から変わらずで、少しだけ気が緩むが、シャルークの冷静なツッコミで自分が馬鹿にされていると気づいたラマザンは激昂し、一触即発。そこに、今やオスマン帝国で“イケメン公”ともてはやされている男――弟のラドゥがやってくる。

 

本作は、芝居の熱量と呼応するように差し込まれる歌も大きな見どころ。絶望に沈むヴラドの独唱、覇道を往くメフメトの力強いナンバー、そして禍々しい空気を纏う『悪魔契約』の儀式など、キャラクターたちの魂の叫びが楽曲に乗せて劇場に響き渡る。

その中で、一際異彩を放つのがここで披露される「王ステ」の名物ナンバー『イケメンソング』だ。今では「王ステ」の他タイトルやライブイベントでも定番のお祭りソングだが、シリーズに途中からハマった方は「ラドゥが初代イケメンだったのか……!」と驚いたことだろう。薔薇を片手にノリノリで歌う弟をポカンと見つめるヴラドの心境やいかに。

 

何はともあれ、無事生きていた弟との再会を喜び、ワラキアに戻ってきてほしいと願うヴラド。しかし、ラドゥは頑なに拒否。それどころか、父を未だに慕う兄に目を覚ますよう訴えかける。

ドラゴン騎士団を率いていたことから“ドラゴン公”とも呼ばれていた彼らの父、ヴラド2世。ドラゴンが意味するのは龍だけでなく――“悪魔”。「父さんは悪魔を信仰していた」。弟の言葉をきっかけに、ヴラドの脳内で封印していた忌まわしい記憶が呼び覚まされる。

 

 

 

血塗られた「串刺し公」の誕生、そして誰も報われない結末へ

※以下、物語後半の展開に触れています

 

ここから先、物語はまさに「誰も救われない、誰も報われない物語」というキャッチコピー通り、奈落の底へと転がり落ちていく。

ディミトリエら貴族の横暴に立ち向かおうとした矢先、大切な仲間であるサリフがヴラドたちを庇って命を落としてしまう。これ以上の犠牲を出さず、圧倒的な力で国を守るため、ヴラドはかつて父が手を染めた「悪魔契約」の儀式に身を投じる決意をする。

血を啜り、人間離れした力を得たヴラドと、彼と共に地獄へ落ちる覚悟を決めるヴィンツェル。すべての始まりとなったこのシーンを再度演じることになった佐藤弘樹と鵜飼主水。狂気と悲哀が入り混じったようなヴラドの表情と、それを静かに受け止めるヴィンツェルの様子が、痛烈に胸に刺さった。

 

悪魔の力を得たヴラドは、オスマン帝国からの無謀な要求に対し、使者の帽子を頭ごと釘で打ち付けるという狂行に出る。史実でも有名なこの恐ろしいエピソードが、先ほど触れた映像演出も相まって舞台上でも鮮烈に描かれている。これが決定打となり、オスマン帝国との全面戦争が開戦。夜襲を仕掛けメフメトを追い詰めるヴラドだったが、背後から彼に刃を向けたのは、他でもない実の弟・ラドゥだった。

 

 

幼い頃から父への思いを巡ってすれ違っていた兄弟は、戦場という凄惨な舞台で、決定的な決裂の時を迎えてしまう。燃え盛る炎の中、ヴィンツェルに救出されたヴラドは、無数のオスマン兵士を串刺しにするという凄惨な光景を作り出し、見事メフメトを退却させることに成功する。

 

しかし、この勝利は真のバッドエンドの幕開けにすぎなかった。そのあまりに残虐な手段は自国の民をも恐怖させ、ラドゥの扇動によって、ヴラドは国を守ったにもかかわらず“串刺し公”としてワラキアを追放されてしまうのだ。

逃げ延びたハンガリーで彼を待っていたのは、フニャディに瓜二つの息子・マーチャーシュ(演・工藤大夢:二役)。世間の目を恐れるマーチャーシュによって、ヴラドとヴィンツェルは再び冷たい牢獄へと繋がれる。

すべてを犠牲にして国を守ろうとしたヴラドは、唯一の肉親とも決別し、民衆に恐れられ、暗闇の牢獄へと逆戻りしてしまった。しかし、その孤独な王の傍らには、地獄の底まで付き従うと誓った従者の姿がある。果たして、ここから“黒の王”が選ぶ道は――そして、その傍らで沈黙を守るヴィンツェルは一体何を知っているのか。

はじまりの絶望に立ち返った「王ステ」シリーズが今後どのような軌跡を描くのか、世界を黒く染め上げる2人の行く末を、今後もぜひ見届けたい。

 

Text by 通崎千穂(SrotaStage)

 

 

 

『黒の王 -Revenge-』公演概要

 

【公演名】 『黒の王 -Revenge-』

【作・作詞・演出】 吉田 武寛

【音楽】 hoto-D

【日程】 2026年8月20日(木) 〜 8月23日(日)

【会場】 こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ

 

【INTRODUCTION】

2020年10月に始まった「王ステ」シリーズ。

幼くして人質となったヴラドと弟ラドゥは、拷問の悲鳴響き渡る檻の中。しかも、ラドゥは仇であるメフメトに心奪われてしまう。

暗闇の牢獄で苦しむヴラドを迎えにきたのは、ヴィンツェル。串刺し公”ヴラド”と従者ヴィンツェルの復讐の戦いがここに始まり、それは数百年に及ぶ旅路へと繋がっていきます。そして、今ここに再戦の狼煙が上がります。

敵はオスマン帝国なのか、それとも自らの運命か。音楽・演出、全てがスケールアップして始まるリベンジマッチにどうぞご期待ください。

 

【出演】

佐藤弘樹/鵜飼主水

木村優良/飯島 颯(SUPER★DRAGON)/工藤大夢/中村龍介/中島礼貴/真野拓実/桐田伶音/高岡裕貴

輝山 立

二葉 勇(TWiN PARADOX)/二葉 要(TWiN PARADOX)

米原幸佑

〈サーヴァント〉

天戸拓磨/太田達也/加納義広/佐々木太一/中谷優斗/藤村リュウト/峯 孝仁/竜崎新大

 

【公式サイト】 https://the-king-of-darkness-2026.com/

【企画・製作】 ILLUMINUS

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