2026.09.06MAGAZINE

「女王ステ」 不滅部隊編『Rose』観劇レポート|戦火の中で美しく咲く、永遠の薔薇

 

「誰も救われない、誰も報われない物語」を掲げ、女優のみで、血塗られた歴史と人間の欲望を描いてきたILLUMINUSのオリジナル舞台シリーズ「女王ステ」。

その新章となる全三部作【不滅部隊編】の第一作『Rose』が、2026年7月2日から12日まで、東京・六行会ホールで上演された。

 

本作で描かれるのは、戦火の時代に秘密裏に存在したという、女性だけのドイツ軍部隊の始まり。

物語を綴ることを愛するミア役をモモコグミカンパニー、強さと危うさを併せ持つ軍人リーザ役を藍染カレンが演じる。偶然出会った二人が、やがて「不滅部隊」と呼ばれる存在へとつながっていくまでの物語だ。

銃撃アクション、歌、ダンス、そして少女たちの繊細な感情が交錯する、新たな「女王ステ」の幕開けをレポートする。

 

 

物語を綴るミアと、薔薇のような人

 

 

舞台中央に咲く、一輪の薔薇。

「Rose……Rose……」という声が響く中、リーザが歌うナンバー「永遠の薔薇」から物語は始まる。

華やかで、強く、近づけば傷つけられそうなのに、どうしても目をそらすことができない。薔薇は、本作の世界観だけでなく、リーザという人物そのものを象徴している。

 

一方のミアは、日常の出来事を物語へと変える小説家だ。

パンがわずかしかない日は「貧しい王女の晩餐」に、雨漏りする夜は「星が落ちてきた夜」にする。苦しい現実の中にも物語を見つけるミアの想像力は、姉のアルマや周囲の人々を静かに救ってきた。

 

 

姉のアルマ、友人のエッダ、執筆を支えるクララ。

物語の序盤には、彼女たちが紅茶を囲み、ミアの新作について語り合う穏やかな時間が流れている。

だからこそ、戦争の影によってその日常が崩れていく展開は、観る者の胸に深く突き刺さる。

 

物語を想像することしか知らなかったミアと、現実の戦場を生き抜いてきたリーザ。

本来なら交わるはずのなかった二人が街角で出会った瞬間から、運命は大きく動き始める。

 

 

憧れから始まる、ミアとリーザの物語

 

 

真っ赤な髪と華やかな立ち姿を見て、ミアはリーザを「薔薇のような人」と表現する。

自分が書こうとしていた、強く、美しく、誰もが目を奪われる理想のヒロイン。その姿を現実の世界で見つけたかのように、ミアはリーザへ強く惹かれていく。

 

モモコグミカンパニーが演じるミアには、素朴さと危ういほどの真っすぐさがある。

小説家として言葉を扱うモモコグミカンパニー自身とも重なる役柄であり、ミアが物語や人の感情について考え続ける姿には、自然な説得力が宿っている。

 

 

対する藍染カレン演じるリーザは、舞台に姿を見せた瞬間から圧倒的な存在感を放つ。

戦場では誰よりも強く、他人を寄せつけない言葉を放つリーザ。しかし、その強さは、生まれながらに持っていたものではない。

思っていることをうまく言葉にできず、繊細な自分を守るために強さをまとってきた人物でもある。

 

 

感情を言葉にして物語を作るミアと、感情を隠して戦い続けるリーザ。

正反対に見える二人の関係は、憧れや好奇心だけでは説明できない結びつきへと変化していく。

二人の声が重なる歌唱シーンは、そんな関係性を象徴する、本作の大きな見どころの一つだ。

 

 

日常から戦場へ――自らの物語を選ぶまで

 

 

偶然起きた、ある出来事。

それをきっかけに街は戦火へと巻き込まれ、ミアの穏やかな日常は、取り返しのつかない形で失われていく。

昨日まで物語の中にしか存在しなかった銃や兵士、死と復讐。それらが、突然ミア自身の現実となる。

 

しかし、ミアはただ悲劇に飲み込まれるだけの主人公ではない。

誰かが書いた物語の登場人物としてではなく、自分が進む道を自分で選び、戦場へ踏み出していく。

 

 

物語の序盤、ミアは「かっこいい主人公が見たい」と語っていた。

そのミア自身が、喪失や恐怖を抱えながら銃を手にし、自らが思い描いていた“強い主人公”へと変わっていく姿が、本作を力強く牽引している。

かつてはリーザを理想のヒロインとして見つめていた少女が、やがて同じ戦場に立つ。

二人の距離の変化とともに、舞台上の景色も穏やかな日常から、赤く激しい戦場へと一変していく。

 

 

銃声と歌声が交差する、圧巻のステージング

 

 

『Rose』を語るうえで欠かせないのが、ガールズキャストたちによる本格的なガンアクションだ。

リーザやミアだけでなく、ニコル、クラウディア、フレイヤ、ロッテら特別部隊のメンバー、そしてアドラー率いる敵対勢力まで、ほぼすべての登場人物が銃を手に戦う。

 

銃を構える動き、相手との距離、発砲のタイミング、倒れる身体。

一つひとつの動作が緻密に組み上げられ、舞台上には途切れることのない緊張感が生まれている。

 

 

力強さだけではなく、身体の軌跡そのものが美しく見えるのも、「女王ステ」ならではだろう。

華やかな衣装をまとった女性たちが、それぞれの信念や怒り、守りたいものを抱えて戦う。銃撃戦でありながら、群舞を見ているような美しさがある。

 

音楽を手掛けたのは、シリーズを支えてきたhoto-D。

重厚な楽曲と銃声が重なり、歌いながら戦うクライマックスでは、歌唱とアクションが一体となるステージングによって『Rose』独自の世界が完成する。

戦いの激しさと、登場人物たちが抱える感情の切実さ。その両方が音楽によって増幅され、観客を物語の中心へと引き込んでいく。

 

 

個性豊かな不滅部隊と、彼女たちを待つ運命

 

 

ミアとリーザを中心に、異なる個性を持った女性たちが集まっていく不滅部隊。

豪快に振る舞いながら仲間を見ているニコル、規律を重んじるクラウディア、冷静に現実を見つめるフレイヤ、静かな優しさを持つロッテ。

 

彼女たちは初めから強い絆で結ばれているわけではない。

互いを警戒し、衝突し、ときには疑いながら、同じ任務と時間を共有することで、少しずつ一つの部隊になっていく。

 

 

一方、彼女たちと対峙するのがアドラー率いる部隊だ。

敵と味方という単純な構図だけではなく、それぞれが異なる正義と目的を持って戦っていることが、物語に奥行きを与えている。

 

誰かにとっての正義は、別の誰かにとっての悲劇になる。

戦時下という極限状態の中で、何を信じ、誰を守り、何のために引き金を引くのか。それぞれの選択がぶつかり合うことで、「女王ステ」らしい救いのない運命が形作られていく。

 

また、一部の役は〈Ark〉〈Coffin〉によるダブルキャストで上演された。演じるキャストによって人物同士の距離や場面の温度が変化し、それぞれのチームで異なる『Rose』が生まれていた。

 

 

物語は、人を救うことができるのか

 

 

銃や戦争、不死という大きな題材を扱いながら、本作の根底にあるのは「物語は人を救えるのか」という問いのように感じられる。

ミアが作る物語は、空腹を消すことも、雨を止めることもできない。

ましてや、迫り来る戦争や銃弾を止めることはできない。

 

それでも、苦しい現実を別の角度から見つめ、明日まで生きる理由を誰かに与えることはできる。

ミアの物語に救われていたアルマの姿は、言葉が持つ静かな力を伝えている。

そして、リーザとの出会いを通して、ミアが書く側から生きる側へと踏み出していくことで、「物語を作ること」と「自分の人生を選ぶこと」が重なっていく。

 

物語とは、安全な場所から眺めるものではない。

傷つき、迷い、ときには間違いながら、自分自身でページをめくっていくものなのだ。

 

 

美しさと棘を抱えた、新章の始まり

 

 

薔薇は、美しいだけの花ではない。

人を惹きつける鮮やかさと、触れた者を傷つける棘。燃える炎や流れる血を思わせる赤。そして、散ったあとにも残り続ける香り。

 

『Rose』というタイトルには、本作に登場する少女たちの美しさ、強さ、危うさが重ねられている。

「誰も救われない、誰も報われない物語」という「女王ステ」の残酷さは、本作でも変わらない。

しかし、その悲劇の中には、誰かを思う温かさと、自分の人生を選び取ろうとする熱が確かに存在している。

 

歌い、踊り、銃を構え、少女たちは戦場に咲く。

その赤い残像を残しながら、『Rose』は全三部作【不滅部隊編】の始まりを鮮烈に告げた。

 

彼女たちはなぜ「不滅部隊」と呼ばれるようになったのか。

そして、戦いの先でどのような歴史を刻んでいくのか。

ページをめくった物語は、まだ始まったばかりだ。

 

Text by ILLUMINUS Magazine編集部

 

 

 

女王ステ 不滅部隊編『Rose』公演概要

【公演名】
女王ステ 不滅部隊編『Rose』

 

【作・作詞・演出】
吉田武寛

 

【音楽】
hoto-D

 

【出演】
モモコグミカンパニー
藍染カレン
大滝紗緒里
佐武宇綺
田中ちえ美
小日向美香

 

〈Ark〉
小山内花凜
中村裕香里
隈本茉莉奈
厚木那奈美
黒崎 澪
日和ゆず
若松来海

 

〈Coffin〉
佐當友莉亜
牧浦乙葵
松村キサラ
吉武千颯
十条 月
三波春香
本条万里子

 

小山百代
生田 輝

 

〈サーヴァント〉
石田みう
大畑杏雛
大藤みら
後藤 楓
杉下希美
山口輝鈴

 

【公演期間】
2026年7月2日(木)~7月12日(日)

 

【会場】
六行会ホール

 

【企画・製作】
ILLUMINUS

 

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