2023.10.05MAGAZINE

築いたシリーズ100ステージ──圧巻の残酷歌劇

女王ステ「星よ女王に堕つ」ゲネプロレポート

  

 絢爛華美な舞台、圧倒する殺陣、情感を強く揺さぶる歌、躍動し跳ね回るダンス、見目麗しいだけじゃない逞しくもがき生きる女性たち。

 ILLUMINUSのお送りする女王ステシリーズを形容するにふさわしい言葉を探している。毎回新作が上演されるたびに添える言葉が増えていく。第1弾「赤の女王」からおよそ5年、10作品、100ステージ。築いてきたシリーズの底力は今作「星よ女王に堕つ」で益々輝きを増すばかりだ。2日に開幕するCoffinチームのゲネプロを拝見した。

 

 実在の事件や歴史上の人物の逸話を題材に、そこに悪魔や魔術、不死の吸血鬼というファンタジー要素を盛り込んだストーリーを女性俳優のみで描くのが魅力のシリーズ。「不死者」「吸血鬼」といえば昨今では『鬼滅の刃』『ジョジョの奇妙な冒険』など挙げればきりがないし、古典を振り返ればシェリダン・レ・ファニュ『カーミラ』、みんなご存知ブラム・ストーカー『ドラキュラ』など、どうやら人間にとってこのテーマは恒久普遍に興味を引く題材らしい。

 その『ドラキュラ』の中で描かれる二人のヒロインをご存知だろうか。一人は弱く儚く男性に守られる存在として描かれるルーシー、一人は強くたくましく独り立ちした芯の強い女性像のミナ。『ドラキュラ』が書かれた19世紀後半はヨーロッパでは“The new woman”と呼ばれる女性解放運動、今でいうフェミニズム運動が盛んになった時代で、イプセンの『人形の家』、バーナード・ショーの『ウォレン夫人の職業』など演劇界でも先進的な女性像が登場した時期でもある。女王ステの女性俳優のみで描くというシリーズの根幹とのシンパシーを感じるのは私だけではないだろう。

 さて、うんちくはここまでにして作品のレビューに移ろう。
「星よ女王に堕つ」の舞台は17世紀のフランス。実在したと言われるカトリーヌ・モンヴォワザンの逸話を下書きにしている。教会の告解室で「毒殺してしまった」という告白を受けた神父からの報告で、調査委員会が設立される。捜査は貴族階級にまで及び、フランス中が混乱に陥った、という信じがたい伝説的な事実を根底に置いている。
今作の主人公はヴェルサイユ宮殿の装飾係として働いている孤児のアトレイユ(演:込山榛香)。持ち前の知見と物怖じしない性格を認められた彼女は、その調査委員会の一員として迎えられ、彼女の視点で事件のあらましを追っていく、というストーリーだ。

 ときの王、ルイ14世に見初められようと、フランソワ―ズ(演:千歳ゆう)、ルイーズ(演:Coffin日和ゆず、Ark雪村花鈴)、イザベル(演:Coffin奥野香耶、Ark永瀬がーな)、フォンタンジュ(演:矢島美音)といった女性貴族たちの権謀術数が宮殿内で渦巻く。事件の調査委員会を取り仕切るのはシリーズおなじみのエリザベート(演:三田麻央)とアメリア(演:草場愛)という人物配置で、ここもシリーズのファンにとっては冒頭からストーリーの行く末にソワソワワクワクさせられるポイントである。

 調査を進める中でアトレイユは、国政にも関わる占星術師ヴォワザン(演:佐武宇綺)へ疑念を深める。しかしそれに反してヴォワザンの娘シャルロット(演:白石まゆみ)とも親交を深めていく。真実の行く末はアトレイユ自身の生い立ちとも深く関わり合って──、果たして真犯人は誰なのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。二転三転するストーリー展開に手に汗握るのは間違いない。

※※以下、ネタバレを含みます※※

 とにかく常に目を奪われるのはアトレイユを演じる込山榛香だ。蓮っ葉で屈託がなく、目上にも物怖じしないふてぶてしさを持ちながら、どこか気品と知性を感じさせるアトレイユを、背伸びも無理もせず実に流麗に演じる。ダンスと殺陣で見せる身体性も魅力的で、特に中盤からのアトレイユの決断は、物語の中核という意味でも、アトレイユ自身の変貌という意味でも圧巻だ。舞台を跳ねるように動き回る込山の大きな貢献で、アトレイユの視点で流れる物語が一層引き締まる。

 シリーズを語るうえで欠かせないエリザベート。演じる三田麻央の存在感たるや。重厚で厳かな雰囲気で終わらず、数百年を生き続ける不死者としての非人間性、超越者としての恐ろしさのような不穏な魅力が際立つ。仕えるアメリア役の草場愛も良い。ふたりの特異な関係性を一発でわからせる二人の立ち居振る舞いは、人気キャラゆえのむずかしさなどどこかへ吹き飛ばしてしまって、これまでのシリーズの歴史の上にさらなるエリ・アメ像を打ち立てたと言えるだろう。

 女王ステシリーズを語る上で彼女の存在は外せない。千歳ゆう。シリーズの全作に出演している唯一のキャストである。今作でもフランスで最も権力を持ったと言われるフランソワーズをいきいきと演じている。とても楽しそうだ。そう、千歳ゆうの魅力は何といってもそこにあると思う。実に楽しそうに舞台に立つのである。黒く深く暗闇に落っこちていきそうな役を、シーンを、ストーリーをさえ、彼女が起こし、色とりどりに輝かせる。白黒写真がカラーになるような、世界に彩りを与える強い影響力、存在感。「観る」というよりも「浴びる」という表現が近いかもしれない。

 書き出せばきりがない。もっと多くのキャラクターとキャストを紹介したい。紙面の猶予から割愛せざるを得ないが、ぜひその目で確かめてほしい。

 「星よ女王に堕つ」は名作揃いの女王ステシリーズの中でも最高と言ってもいいくらい傑作だ。100ステージ突破のお祝いの言葉もたくさん書き連ねたい。だがここで終わりではないだろう。新作ごとに最高を上塗りし続けるこのシリーズの次なる100ステージに期待を抱かずにはいられない、そう思わせるに十分な2時間であった。

(取材・文章:佐野木雄太)

舞台「星よ女王に堕つ」公演概要

女王ステ第10弾、舞台「星よ女王に堕つ」10月8日、六行会ホールにて上演中!

※チケットのご予約はこちら☟
https://t.livepocket.jp/t/6oix-

※詳細はこちら☟

【公演名】
舞台「星よ女王に堕つ」

【作・演出】
吉田武寛

【Introduction】
「誰も救われない、誰も報われない物語」をテーマに、血塗られた実在の悲劇をモチーフにし、作・演出吉田武寛による女優のみで描く「女王ステ」シリーズ。2019年から2023年迄、7作品9公演上演し、ILLUMINUSの人気シリーズとして定着しました。2023年秋に10弾となる8作品目の上演を行います。

【Story】
17世紀、フランス。
人々から神のように崇められていた「太陽王」ルイ14世の輝かしい時代。
パリの教会に届いた匿名の手紙には「国王と王子が近いうちに殺される」と予言が書かれ、宮殿内で頻発した毒殺や怪死は、フランスをたちまち大騒ぎにした。
ルイ14世は、占星術師ラ・ヴォワザンを招聘し、新たな予言に救いを求める。
しかし、宮殿の見習い美術家アトレイユが彼女に観たのは、星の見えない醜い暗闇だったー。新たな悲劇の幕が上がる。

【上演会場】
六行会ホール

【上演期間・タイムテーブル】
2023年9月30日(土)~10月8日(日)
全12公演

【出演】

込山榛香(AKB48)

三田麻央
佐武宇綺
白石まゆみ
千歳ゆう 
馬嘉伶(AKB48)
草場愛
矢島美音
道枝咲


本条万里子
永瀬がーな
雪村花鈴
 


奥野香耶
林鼓子 
日和ゆず


小山百代
藤井彩加

<サーヴァント>
後藤楓 
橋本愛美
杉下希美 
結城まお
石田みう
大貫菜子

<スケジュール>

9月30日(土)18時(Ark)●
10月1日(日)13時(Ark)● 18時(Ark)●
10月2日(月)19時(Coffin)●
10月3日(火)19時(Coffin)▲
10月4日(水)休演日
10月5日(木)13時(Coffin)● 18時(Ark)● 
10月6日(金)19時(Coffin)▲
10月7日(土)13時(Ark)▲ 18時(Ark)▲
10月8日(日)12時(Coffin)▲ 16時30分(Coffin)▲

●・・・小山百代出演回
▲・・・藤井彩加出演回

【公式Twitter】@AKANOJOHOU
https://twitter.com/AKANOJOHOU
#女王ステ
#星よ女王

【公式サイト】
http://www.queen-of-the-shooting-star.com

【お問い合わせ】
info@illuminus-creative.net 
(ILLUMINUS運営事務局)

【企画・製作】
ILLUMINUS

舞台「星よ女王に堕つ」オープニング映像