
魔法使い養成学校ジェムストンカレッジ、通称「宝石箱」を舞台に、若き魔法使いたちの成長を歌とアクションで描くILLUMINUSのオリジナル舞台シリーズ、通称“レタステ”。
シリーズ第3弾『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ -lapis lazuli-』が、2026年9月30日から10月4日まで六行会ホールにて上演された。
主演に石原知哉を迎え、シリーズ初登場となる水の魔法を司る〈ラピスラズリ寮〉に光を当てた一作だ。本記事では、「忘れること」と「つなぐこと」をめぐる本作の魅力を掘り下げたい。
「拝啓」から始まる物語――ラビリンスに仕掛けられた問いかけ
30年前、大地震とともに穿たれた大穴「ラビリンス」。鉱石病という謎の病が広がり、灰鬼(ハイキ)が人を襲う世界で、不思議な力――魔法を使える人が生まれるようになった。魔法使いたちは、鉱石病を治療できる唯一の石・クリスタルを求めて、先の見えない深淵へとダイブしていく。
幕開けは暗闇の中、ラビア(演・石原知哉)の語りから。ラビリンスの奥から飛んでくるという手紙は、いつもこう始まる。「拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ」。この一文が、最後に思いがけない重みを持って観客の胸に戻ってくることになる。

続く川原の場面では、石を投げて授業をサボる三人の前に、校長ハンドレッド(演・小林涼)と新任教師ローワン(演・松藤拓也)がひょっこり現れる。軽やかな掛け合いで世界観と人物関係をテンポよく紹介しつつ、ラビアがローワンに理由の分からない怯えを見せる一瞬だけが、さりげなく不穏な影を落としている。
落ちこぼれトリオが抱えていた「空白」――10年前、あの場所で何があったのか
物語の中心は、授業をサボってばかりのラピスラズリ寮一年生トリオだ。
魔法を使うと知らない誰かの記憶が流れ込むラビア、感情が高ぶると魔力が暴走する名家の息子レティシャ(演・白金倫太郎)、理論は優秀なのに実技では極度に緊張してしまうカスピタ(演・成瀬遙城)。前半は留年を賭けた合同授業や校内イベントの障害物競走で、三者三様の「失敗の仕方」がコミカルに描かれ、客席の空気を一気に和ませる。
そんなラビアには、誰にも言えない秘密の居場所がある。立入禁止の部屋で、クリスタルに封じられた巨大な蛇・オロチ(声・三本木大輔)と言葉を交わす時間だ。
魔法を使うたびに流れ込む他人の苦しみや悲しみを、オロチに「食べて」もらうことで頭をすっきりさせる――ラビアが「意外とウィンウィンの関係なんだよ」と笑うこの奇妙な交流は、恐ろしい存在のはずのオロチをどこか温かく見せる。一方で、オロチが告げる「お前に危険が迫っている」という忠告が、物語に静かな緊張を走らせる。
物語は、転送ゲートの暴走で一同がラビリンス深層へ飛ばされたことから、急速に陰影を帯びていく。
辿り着いた旧研究施設の被験者リストに並ぶ、三人の名前。そして「シータ」という、誰も覚えていない少年の名。10年前、この場所で一体何があったのか……? 三人の失われた記憶に迫っていく回想は、本作最大の見どころだ。

無邪気に笑い合う幼い子どもたちの姿が明るいほど、その後に訪れる展開は痛切に響く。真実を知って揺れる三人に、「力そのものに善悪はない」と語りかける魔法省捜査官ユリウス(演・塚本凌生)の言葉も印象深い。
ゲートの向こうから届く手紙は、いったい誰が何を伝えようとしていたのか。その答えにたどり着いたとき、タイトルに込められた想いが静かに浮かび上がる。
寮の垣根を越える群像劇――仲間と分け合うプリン、そして“大人の責任”
本作が単なる主人公の成長譚に留まらないのは、他寮の面々がそれぞれの持ち場で物語を支えているからだ。
ラビアを庇って負傷するシャーゼット(演・KEITO)と、彼に肩を貸し続けるセツナ(演・三原大樹)。口喧嘩を重ねながら背中を預け合うガーネット寮長ヴァル(演・田中晃平)とアメジスト寮長リューン(演・千葉瑞己)。学園に残り、ゲートを開いたことへの責任に揺れるユーリ(演・鈴木遥太)を、トオル(演・一之瀬優)が「怖いに決まってる」と本音を見せながら支える場面には胸が熱くなる。
シトリン寮のリット(演・白石康介)、ナツハ(演・瀬川拓人)、ノノ(演・早川維織)の調査パートは、給食表やイケメングランプリが飛び出す笑いどころでありながら、事件の鍵となる記録を掘り当てる重要な役割も担っている。
中でも印象に残るのが、障害物競走で散々な結果に終わったラピスラズリの三人に、セツナがかける言葉だ。
慰めはいらないと突っぱねるレティシャに、彼は「失敗したくらいで諦めるのは甘えだって言ってるだけ」と返し、さらに「授業に出れば皆がいる。一人で上手くなる必要ないんだよ」と続ける。厳しさと優しさが同居したこの一言は、本作全体を貫くテーマの予告にもなっている。

休憩時間にプリンを二つ持ってくるノノの屈託のなさや、「仲良いな」とからかう他寮の面々との他愛ないやりとり。こうした日常の一コマこそ、本作の大きな魅力だ。
学生を題材にした作品ならではのほっこりとした空気は、シリアスな展開が続く中で観客をそっと癒してくれる。ラビアが初めて「帰ってくる場所がある感じ」と口にする場面へとつながるこの温もりは、やがて物語のラストでもう一度、大切な意味を帯びて立ち返ってくる。
もうひとつの軸が大人たちだ。軽薄に見えて何かを隠している教師ローワン、飄々とした校長ハンドレッド、穏やかで人当たりのいい魔法省捜査官グレン(演・宮城紘大)。それぞれが過去に下したある決断と責任にどう向き合うのかが、物語の後半で大きな意味を持ってくる。声のみで登場するオロチが、ラビアと親子のような絆で結ばれていく描写も味わい深い。

宝石のきらめき――光が語る魔法の世界
そしてこのレタステの世界を何倍にも引き上げているのが、ライティングだ。宝石をモチーフにした作品世界に、照明があざやかなきらめきを与えている。
とりわけ印象的なのは、ラビアがオロチに記憶を与える場面。舞台を色とりどりの光が駆け巡り、他人の記憶や感情が次々とフラッシュバックしていくさまを、そのまま視覚化してみせる。言葉では説明しきれないラビアの内側の混沌が、光の明滅となって客席にまで押し寄せてくるようだ。
魔法の発動もまた、色だけでなく動きや質感によって描き分けられている。ガーネットの炎は赤、アメジストの闇は紫、ラピスラズリの水は青、シトリンの光は黄色――
寮ごとのカラーリングが魔法の色としても生かされ、誰がどの力を放ったのかが一目で伝わる。この配色は第2部で客席を彩るペンライトの色とも呼応し、作品全体をひとつの「宝石箱」としてまとめ上げている。

二つの場所を行き来する構成の妙
脚本の構成面で光るのは、ラビリンスへ飛ばされた組と学園に残された組、二つの場所を交互に描くクロスカッティングだ。
深層では先の見えない探索と戦闘が続き、学園では残された生徒たちが記録をたどって真相に近づいていく。片方で生まれた謎をもう片方が少しずつ解き明かす仕掛けによって、観客は常に一歩先を知りたくなる。
さらに、ゲート暴走という最大の事件の直後に、全キャストによるオープニングアクトが置かれている点も心憎い。
日常パートから一転して物語が大きく動き出す瞬間にテーマ曲が鳴り響くことで、ここからが本当の冒険の始まりだと客席に強く印象づける。前半で丁寧に描かれた何気ない台詞や小道具が、後半でことごとく意味を持ち直していく伏線の回収ぶりも見事で、二度目の観劇で新たな発見がありそうだ。
第2部ショートライブ――客席も「宝石箱」の一員に
本編の余韻をそのまま受け継ぐように、第2部は校長ハンドレッドの呼びかけで始まる“祝祭”=ショートライブ。客席が少しずつペンライトで色づいていく時間そのものが、観客を「宝石箱」の一員へと迎え入れるようだ。
ラピスラズリとシトリンが金と青の対比で夜を彩る『Midnight Magic』、ガーネットとアメジストが火花を散らす『Clash my Magic』、魔法省コンビの妖しげな『Risky Summer』、先生が歌うナンバー『雨のパレード』と、各曲が本編のキャラクター関係をそのまま映し出す構成が楽しい。
とりわけラピスラズリ三人による『River』は、流れ込む記憶を抱えて生きる彼らの決意を歌った一曲で、本編を見届けた後だからこそ深く沁みる。一年生7人による『Fly high』の弾けるような明るさ、トオルとユーリが「おかえり」を約束し合うジュエラー曲の切なさも、彼らが通り抜けてきた時間を思えばひときわ愛おしい。
ラストはテーマ曲『Gems in the Labyrinth』を全員で。撮影可能パートも含め、客席と舞台がひとつになる幸福な時間だ。

壊すより「つなぐ」魔法――三等分された想いの行方
※以下、物語後半の展開に触れています
忘れがたいのが、脱出の間際にカスピタがひとり残ろうとする場面だ。ある記憶を、ずっと誰にも言えずに抱えてきた彼。「また二人までいなくなるのが怖い」と打ち明けるカスピタに、ラビアは「一人で怖がるなよ。俺にも分けろ」と返し、レティシャも続く。「じゃあ三等分だな」と少しだけ笑うカスピタ。
かつて誰か一人に背負わせてしまった選択を、今度は三人で分け合う――回想シーンと鮮やかな対になった、本作屈指の名場面である。
序盤、ローワンが何気なく口にする「ラピスラズリの水は、壊すより“つなぐ”方が得意」という言葉。
それは物語が進むにつれ、記憶をつなぎ、仲間をつなぎ、過去と未来をつなぐ本作そのものの主題として立ち上がってくる。ラピスラズリ寮が本当の力に目覚める瞬間が、一人の力ではなく寮を越えた友情によってもたらされる終盤の展開は、その主題の美しい結実だ。

笑いの場面がしっかりと楽しいからこそ、物語が深みへ潜っていくにつれて重みが増していく緩急の付け方も心地よい。
ファンタジーとしての冒険活劇、学園ものの青春群像、そして過去と向き合う人間ドラマと盛りだくさんのボリュームながら、帰り道に残るのは「誰かの記憶を、忘れずに抱えていく」という静かな温かさ。シリーズ未見の観客でも十分に入り込める一本であり、次はどの寮の、どんな手紙が届くのか――“レタステ”の宝石たちが描く軌跡を、今後もぜひ見届けたい。
Text by MAGAZINE編集担当U
『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ -lapis lazuli-』公演概要
【公演名】 舞台『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ -lapis lazuli-』
【作・作詞・演出】 吉田武寛
【音楽】 豊田健甫
【音楽監修】 FAVORITE STEPS
【日程】 2026年9月30日(水) 〜 10月4日(日)
【会場】 六行会ホール
【INTRODUCTION】
オリジナル舞台シリーズ、通称『レタステ』。魔法使い養成学校〈ジェムストンカレッジ〉を舞台に、若き魔法使いたちの青春を描くファンタジー作品として、2025年1月に第1弾『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ』を、2026年1月にはガーネット寮を中心に描いた第2弾『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ -GARNET-』を上演。
そして2026年秋、シリーズ第3弾『拝啓、親愛なる魔法使いのあなたへ -lapis lazuli-』が上演。主演に石原知哉を迎え、シリーズ初登場となる〈ラピスラズリ寮〉を舞台に、新たな物語が幕を開けます。
その手紙が導く先にある真実を、どうぞ劇場でご覧ください。
【出演】
石原知哉
千葉瑞己/塚本凌生/田中晃平/白石康介/三原大樹/白金倫太郎(7m!n)/成瀬遙城/一之瀬優/早川維織/瀬川拓人/松藤拓也/KEITO/鈴木遥太
宮城紘大
小林涼
〈アンサンブル〉遠藤幸介/佐野旺二朗/住友快吏/中谷優斗/和氣隆成
〈声の出演〉三本木大輔
【公式サイト】 https://letter-stage-lapislazuli.com/
【企画・製作】 ILLUMINUS



