25.9.23舞台「振り子」クリエーター対談公開
発表以来、多くの人々の心を揺さぶり続けてきたパラパラ漫画『振り子』。
舞台化にあたり、脚本を手がけたのは23さん、演出は吉田武寛さん、そして原作を生み出したのは鉄拳さんです。
それぞれが『振り子』という作品にどのように向き合ったのか――。
作品誕生の背景から舞台化への想いまでを語っていただきました。
今回は、舞台「振り子」パンフレットの付録として掲載された座談会を特別に公開します。
小宮山:まずは、鉄拳さんのパラパラ漫画『振り子』がどういうきっかけで生まれたのかお聞かせいただけますか。
鉄拳:テレビ番組で、アイドルや歌手、俳優、芸人などいろんな方が集まって、それぞれパラパラ漫画を描いて競うっていう企画があったんです。その番組で描いたのがこの『振り子』です。ルールは「パラパラ漫画であること」だけで、それ以外は完全に自由でした。だから本当にいろんな作風の作品が集まっていました。
小宮山:最初から感動的な物語を作ろうと考えていたんですか?
鉄拳:そうですね。その前に別の番組で『絆』というパラパラ漫画を描いていたのですが、それがとても好評でして。「あの雰囲気で作品を作れませんか」と声をかけていただいたのが始まりです。
小宮山:そうだったんですね。物語も、鉄拳さんが考えられたのですか?
鉄拳:そうです。夫婦の物語を題材にしようと思い、結構リサーチもしたんですよ。巣鴨でお年寄りの方に「人生とは何ですか?」と伺ったり、原宿や表参道で夜に若い夫婦の方にもインタビューしたりしました。「人生は信じあうことである」とか、「支え合うことだ」とか、色々なお話が聞けましたね。
ある時リサーチをしていると、突然後ろから「おい、お前、何やってんだ!」と声をかけられたんです。振り返るとビートたけしさん(北野武さん)で。
一同:ええっ!
鉄拳:「パラパラ漫画を作っていて、いろんな夫婦にインタビューをしているんです」と説明すると、「そうか、頑張れよ」と言ってくださいました。周りのスタッフさんたちも「すごいですね」「ドッキリですか?」と驚いて、「これは絶対何かあるぞ」と盛り上がりました。結局、その映像は使えなかったのでこのエピソードを周囲に話しても、なかなか信じてもらえなかったんですけどね。
23:すごい偶然ですね、運命を感じます。
鉄拳:その後も授賞式の場などで再会して「あのとき偶然会ったよな」って覚えてくださっていて。『振り子』は、そうしたご縁からも生まれてきた作品なんです。
振り返ると、節目節目でたけしさんに背中を押してもらっているような気がします。
小宮山:『振り子』は今回が初めての舞台化になりますが、脚本を担当された23さんはいかがでしたか。
23:脚本にするのはとても難しかったですね。鉄拳さんが作品に込めた“見えないもの”を、舞台上で“見えるもの”にしなければなりませんから。ただ感動だけではダメだし、ユーモアも必要で、そのバランスをどう取るかが課題でした。原作を観るたびに泣いてしまい、そのせいで納期が少し遅れました(笑)。
小宮山:吉田さんに提案していただいた「3世代で描く」というプロットはどのような発想から生まれたのでしょうか。
吉田:パラパラ漫画では時代が移り変わっていく様子を表現できますが、舞台で一人の人生だけを追っても同じ感動は生まれないなと思ったんです。そこで3世代を行き来させることで『振り子』の時間性を表現しようと考えました。地球が自転しているような、超自然的な大きな運動を舞台上で表現できたらなと。
23:たまたま振り子って思いついたのかもしれないですけど、心臓の鼓動にも似ていますし、人生の良いことも悪いことも含めて揺れながら続いていく感じがありますよね。そうしたモチーフが重なって、多くの人に刺さる作品になっているんですね。
どうして最初に振り子をテーマにされたんですか?
鉄拳:パラパラ漫画で、横の動きと縦の動きを組み合わせたら面白いんじゃないかと思ったんですよ。意外とみんなそこに気づいてくれないですけど(笑)。振り子って場面転換にもいいんですよ。実は以前にも『振り子』の舞台化の話はあったんですが、そのときはなくなってしまって。「やっぱり、かなり難しかったんだな」と思っていたので、今回本当に実現すると聞いてびっくりしました。
小宮山:舞台では「二人の人生をどう見せるか」が課題になりますよね。
鉄拳:そうですね。単に人生をなぞるだけだと、ただの物語になってしまう。そこに感動をどう映し込むかは、やはり演出家・吉田さんのアイデアが大きかったと思います。
吉田:等時がずっと3世代の人生を旅するように舞台を進んでいく。その中で過去や未来の姿も重なり合っていくように描いています。
小宮山:世代ごとに違う役者さんが演じるのも楽しみですね。振り子の表現がどう描かれているかも、大事な要素になりそうです。
鉄拳:そうなんです。「振り子のテイストは必ず入れてください」とお願いしているんですが……あるんですか?(笑)。
吉田:表現はもちろんあります。最初、巨大な振り子を舞台上で実際に揺らそうと思ったんですよ(笑)。でも何度も打ち合わせを重ねて、やっぱり難しいよねってなって、別の表現で振り子のテイストはきちんと入っています。
小宮山:鉄拳さんは、脚本をご覧になってどんな印象を持たれましたか。
鉄拳:まず3世代が同時に動いているのがわかる構成に驚きましたね。「なるほど、こう来たか」と。でも、「これができたらすごいけど、観ているお客さんに伝わるかな?」とも思いました。舞台で表現するのは難しいけど、僕は一番楽しみなポイントですね。
普通なら一人の人生を順に描いて終わりにしてしまいそう。
23:そうそう。普通にやったらありきたりになってしまう。でもこの方法なら新鮮に描ける。舞台でどう見せるのか、演出が僕もすごく楽しみです。
鉄拳:円香という女性キャラクターも印象的ですよね。
吉田:そうですね。等時の人生を支える存在として、円香をどう描くかで作品の厚みが変わると思います。彼女のエピソードや、等時との出会いを掘り下げることで、お客さんが「もう一度観たい」と思えるような仕掛けになるんじゃないかと。
23:初めて観たときはよく分からなかった部分が、観終わったあとに「あ、そういうことだったのか!」と腑に落ちる。もう一度観たくなる余韻が残る作品なんですよね、『振り子』って。だからこそ動画の再生数も伸びたんだと思います。
鉄拳:「あれ、どういう意味だったんだろう」と、何度も観たくなりますよね。わかった後で観るのもいい。
『振り子』は映画バージョンもありますし、今回の舞台バージョンもあります。それぞれ別のストーリーで、いろんな形で『振り子』が表現されるのは面白いと思います。
23:僕はあえて鉄拳さんのパラパラ漫画だけを観て、余計な情報を入れないようにしました。
鉄拳:あのパラパラ漫画に、僕が一瞬登場しているのに気づきましたか?
23:そうなんですか!?
鉄拳:バイクに乗ってるシーンで一瞬通り過ぎます。良かったら是非探してみてください。今回の舞台でも、もしバイクのシーンがあればまた通り過ぎるかもしれません。
一同:(笑)。
鉄拳:登場人物の名前ってどのように決めたんですか。
23:名前には、時間や振り子時計に関わる言葉を取り入れました。たとえば「等しい時間」「時計の針」とか。全部振り子時計に絡めています。
鉄拳:ああ、なるほど! 僕の『振り子』の中では名前がないんですよ。「永井」も“永い”からきているんですね。
小宮山:パラパラ漫画『振り子』の制作期間はどのくらいだったんですか。
鉄拳:大体2ヶ月くらいです。イギリスのロックバンドMUSEさんの公式MVに合わせるために、3分から4分半に伸ばしたのが今の『振り子』ですね。
23:世界中に広まったきっかけは何かあったんですか?
鉄拳:MUSEさんのおかげもありますし、音楽が良かったのも大きいですよね。最初は「3分のパラパラ漫画なんて誰も観ないでしょ」「1分くらいが一番いいですよ」などと言われたんですが、見せたら「いいじゃないか」と。
※パラパラ漫画『振り子』は、イギリスのロックバンド「MUSE」の楽曲『エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部(あがない)』のオフィシャル・ビデオに使用されている。
小宮山:最後に、ご来場のお客様へメッセージをお願いします。
23:皆さん是非パラパラ漫画『振り子』を見て、それから舞台『振り子』を観に劇場に来て、帰ってからまたパラパラ漫画『振り子』を観て……振り子のように行き来して楽しんでいただけたら嬉しいです。ご自身に重ねて、明日の活力にしていただければと思います。
吉田:舞台版では原作からさらに広げた要素を盛り込んでいます。パラパラ漫画を観たことがある方も、新鮮な驚きがあるはずです。ぜひ楽しんでください。
鉄拳:観終わった後に、夫婦や家族の関係を考えるきっかけになってほしいですね。電話をかけてみてもいいし、改めて周りの人との関係を見つめ直してみたり。そういうきっかけになれば嬉しいです。時間が有限だということが、歳を取るとわかってきますから。
今回、「舞台」という新しい形で『振り子』が表現されます。
どんな風に振り子が動き、どんな風に人生が描かれるのか――是非劇場で、この揺れ動く時間を体感してください。
✨ 舞台「振り子」関連グッズ販売中 ✨
公演パンフレット・キャストブロマイド(一部キャスト)をECサイトにて販売しております。
販売は 10月7日(火)23:59まで となります。