
「NO TRAVEL,NO LIFE」は、今年9月に開催される池袋演劇祭へエントリーをしている。3度目の舞台化は原作の作品力を活かし、演劇作品としてもより芸術性を高めた作品作りをキャスト・スタッフ一丸となって目指していく。インタビュー後編では、主演新里哲太郎と、原作者須田誠が本作品へのそれぞれの想いをたっぷりと語ってもらった。
須田さんは「模索する創造者」、
何かを「頼る」のではなくて、「創造していく」人だと思う(新里)

新里 本を読みながら「須田さんってどんな人なんだろう」と考えた時、「模索する創造者」だと思ったんです。写真から出てくる詩的な言葉が「自分はこうしたい」「こう生きるべきだ」と答えを出している…。何かを探している時に、何かを「頼る」のではなくて、「創造していく」人だと思うんです。「探しているから、創る」という。そんな力強さを感じました。
須田 すごく良い言葉だ。
新里 本当ですか?やったあ(笑)。僕も共感するところは多いんです、哲太郎という僕の名前に使われている「哲」という漢字は「哲学」の哲ですし。「太朗」は「男の子」という意味。「考えて強くなるんだ」と、子供の頃、自分なりに考えていたんです。
須田 そうなんだ。僕は最近、哲学を学びだして色々な本を読んでいるんですよ。若い頃は全然、本を読まなかったんだけど。哲学をなぜやりだしたかというと、写真を撮ることを通じて、ずっと模索してきた「人はなぜ生まれ、生きるのか」ということに対する答えが見つかるのではないかと信じているのです。写真って、僕が生きた証。写真として、写真集としてとして残って、ずっと僕についてきている。写真をやることによって、人間というものが解明されるんじゃないかと思って…まさに模索する創造者!色々な本を読んでいるんですが「現象学」という哲学に関する本を読み始めて、今、そこを模索しているんです。哲学の哲か…。ご両親は、何かそういう意味を込めて(名付けた)?
新里 いや、小さい時に尋ねたら、父が「哲男」で、母方の祖父が「金太郎」という名前で(笑)。「それ混ぜ合わせただけだよ!」って(笑)。けれど、小学生の時に「調べてください」っていう課題が出て、調べて報告した時に、当時の先生が「こういう意味があるんだよ」と教えてくれたんです。それで「じゃあ、そう生きる!」って。その先生のこと、ちょっと好きだったんです(笑)。きれいな方でした。
須田 そうか。良いお話ですね。僕は写真を撮る時の究極のテクニックは「被写体を引き寄せること」だと思っていて。いくら100万円のカメラを持っていても、良い被写体が来ないと撮れないじゃないですか。僕は自分で言うのも何だけど「持ってる」男だと思っていて(笑)。今回の「GIFT」のストーリーって、まさにそうだと思っていて。僕がオファーしたわけではないけれど、「哲太郎」くんを引き寄せられた。
新里 ゾワゾワってしますね。
須田 「偶然はない」と僕は思っているんですけど、「GIFT」では偶然がすごく重なっているんですよ。2015年にオバマ大統領がキューバとの国交を再開したので、12年ぶりにキューバへ行ったのですが、行きの飛行機が飛ばなくて、1日遅れた。トロントで1泊しなくてはいけなくなったんです。遅れがあった後に(キューバで)ロネルという友人の家に行こうとした時、ロネルの元恋人のロサと道端でバッタリ会って。「ロネルに会いに行こうと思ってるんだ」と話したら「ロネルは今、家にいない」と言われたんです。「12年ぶりに行ったのに会えないのか!」と思った。すると、ロネルの3日間だけの仮出所と、僕の滞在が重なっていた。
新里 すごい…。タイミング、すごすぎますね。
須田 すごいですよね。
新里 持ってますね。
須田 持ってます(笑)。こうして、2015年の国交再開のキューバを撮りにいったのに「ロネルファミリーの3日間を追う」というドキュメンタリーになってしまった。そして、それが本になりました。

GIFT
【作品紹介】
幸せとは、目の前にある愛だとキューバが教えてくれた。
混沌のキューバに実在する、とある家族の愛の物語。写真集『GIFT from Cuba』今秋出版決定!
~2017年、今だから日本へ伝えたい想い~
『普通の生活。それがどれだけ大切なことなのか。母の抱擁はとても温かく、何よりもかけがえのないものだった』
いま世界的に注目されているカリブ海の島国、キューバ。そのキューバにおいて、ある一つの家族を撮り続けた写真家・須田誠。2002年、2003年、そしてアメリカとの国交正常化の知らせを受け、2015年に再び訪れて撮影した記録が一冊の本になりました。
首都ハバナに住む一人の男性を中心に繰り広げられる家族愛溢れる物語を、写真と文章で紡ぎ出す。まるで映画や舞台を見ているかのごとく製作されたノンフィクション写真集!
■『GIFT』(2017年秋リリース予定)
https://hello-iroha.com/books/gift
新里 (舞台では)その時の須田さんがどう躍動したのかを想像するのが楽しいですね。とはいえ、僕はやはり須田さん本人ではない。僕が演じるゆえ、どんなに自分を消そうと思っても、どこかに多少なりとも残ってしまう。僕というフィルターを通して、表現することになるので、どこまで共感してもらえるように生きることができるか、を考えていますね。
須田 僕は最初の舞台の台本をもらって、リハーサルを見て、「こんなの絶対舞台にできない」と思っていました(笑)。演出家というものが何かも知らなくて。けれど、吉田(武寛)さんの手にかかったら、こうなるんだとビックリしました。「全然違うけど、すごいじゃん!」って(笑)。役者も僕じゃないけど、すごく「須田」だし。舞台の力を吉田さんに見せつけられましたね。役者さんも、僕そのものはできるわけがないし。今回も「須田哲太郎」というか(笑)。
新里 そうですね(笑)!
須田 そういうことですよね。
ー劇中で印象的だったシーンはありますか?ー
須田 印象的だったのはやはりラストシーンですが、それはネタバレになってしまうので伏せるとして(笑)。劇的なのは、ヒマラヤの遭難シーンかな。
新里 あれって、実際の出来事なのでしょうか?
須田 あれはね、吉田さんの演出なんですよ。ヒマラヤのベースキャンプなどは行っているんですけどね。あそこは良く周りにも聞かれるんですよ、「須田さん、すごい体験してるんですね…」って(笑)。演出家さんの力ってすごいな…って思いました。最初に観た時、ラストシーンはもう、泣きましたよ(笑)。
新里 どうしようー!初演の話が、2番手にはプレッシャーになるなぁ…(笑)!
須田 アハハ(笑)。大丈夫ですよ。
新里 精一杯やらせていただきます(笑)。
須田 たぶんね、これ、僕が一番楽しいと思うんですよ(笑)。
世の中、何が起きるかわからないから。
やはり「好きなことをやって生きていった方が良いよ」 (須田)

-ご来場するお客様へメッセージをお願いします-
須田 この本が伝えたいのは「好きな事をやって生きていこうよ」ということ。僕のデビューは47歳です。「その年になっても本出して良いんだ」って、結構言われるんですよ。最近の若い子は「3年仕事してから旅に出るんだ」なんて言いますが、3年も待たずに明日から行った方が良い。地震とかだって起きたりするし、世の中、何が起きるかわからないから。「自由」っていうのもひとつのテーマだし、やはり「好きなことをやって生きていった方が良いよ」というのが、メッセージですよね。
新里 僕も、好きなことをしようと思わなければ役者をやっていないと思います。
須田 僕も写真をやっていて「これで良いのかな」って思うことはありますよ。何かもっと、世の中のためになる仕事があるんじゃないかって(笑)。
新里 僕の場合は、好きな脚本を読んだり、好きだったシーンを家で演じてみたりすることですね。台詞をバーッとやってみたり、稽古に没頭していると、やっぱり「好きなこと」をやっているから、落ち込んでいることを忘れることができる。
須田 その気持ち、とても良くわかります。僕も写真を撮っている時はトランス状態に陥っているし、こんなところ(小さなファインダー)をじっと見ていて、周りは見えない。グッと集中するので、とても気持ちいい状態なんです。あとは、僕の作品を見てくれた人から「元気出たよ」と言ってもらえたりすると、すごく嬉しい。「やっていて良かったな」と思います。この本を出した時も、難病の方をはじめ、色々な方からメッセージをもらって、「出してよかったな」とすごく思いました。とはいえ、今はamazonやネットで、批評もすごくありますよね(笑)。まあ、でも、批評はあった方がいい。
新里 僕も、批評はあった方がいいと思います。
-本作品は池袋演劇祭大賞へのエントリーもするようですね-
新里 何か賞をもらえる、ということはすごく喜ばしいことだと思うのですが、この素晴らしい本(NO TRAVEL NO LIFE)と、須田さんの生き方が作品の大きなテーマ。なのでやっぱり、賞を取るために頑張るというより、この作品をどう良いものにするか、一緒に作ってくださる共演者の方々、スタッフ、演出家と、ただただ良い作品を作ろうと没頭する時間にできれば。ただただ良い作品を作れば、賞も勝手についてくるんじゃないかな。…って、カッコイイこと言いたいですけどね(笑)。それで賞を取れたら…
須田 バッチリですね。
新里 最高ですね。
須田 写真と舞台のコラボレーションとして、僕のメッセージも伝えられる。その中から「本当の自由って自分にとって何なのかな」というところに気付いてほしいですね。
新里 僕も須田さんと同じです。おこがましいかもしれないけど、演劇を観て、もしかしたら誰か1人の人生を変えることができるかもしれないと、信じてやっている。ちょっとしたきっかけ、心に何かが触れる作品にきっとなると思うので、是非観てほしいと思います。

-2人で話してみてどうでしたか?-
-2人で話してみてどうでしたか?-
須田 僕より落ち着いている感じがします。
新里 本当ですか(笑)!?全然ですよ!
須田 声も渋いし。
新里 緊張の裏返しです(笑)。聞きたいこと、まだまだたくさんありますよ。
須田 また改めて、飯でも行きましょう。
新里 ぜひ!
企画・構成:小宮山薫 インタビュー& 文 :Murata Yumiko 写真:豊川裕之
「NO TRAVEL, NO LIFE」

・日時 2017年9月8日(金)-10日(日)(全5stage)
・会場 シアターグリーン BASE THEATER
・所在地 〒171-0022 東京都豊島区南池袋2丁目20−4
・脚本・演出 吉田武寛
・原作 NO TRAVEL, NO LIFE(著:須田誠 出版:A-Works)
・概要
10年のサラリーマン生活にピリオドを打ち、呼ばれるように海を渡ったひとりの旅人須田誠氏が綴ったフォトエッセイ「NO TRAVEL, NO LIFE」。「本当の自由って、一体なんだ?」「旅」を通して本当の自由、本当の自分を見つけた著者のメッセージと写真が詰まった一冊。写真集としては異例の現在で第5刷・25,000部を超えるヒットを記録。昨年、同作を吉田武寛氏の脚本・演出により舞台化され、全公演SOUL OUTとなった話題作が、待望の再々演で今秋に戻ってくる。
・ストーリー
順風満帆な生活を送り、将来を有望視されていた須田誠は、 これまで積み上げてきたステータスすべてを捨て、呼ばれるように世界放浪の旅にでる。 唯一の相棒は、”使い方も知らない一眼レフカメラ”。 1/8000秒、世界はどのように映ったのか……。
・出演
新里哲太郎
谷茜子
瀬尾卓也
風間庸平
三本美里
文夏
・語り
宮澤正
・チケット
全席自由席 4000円
* 学割あり500円割引(後方席 / 要予約 / 要学生証提示/ 開演5分前入場 )
* 当日券は500円増
・Official Page : http://illuminus21.xsrv.jp/wp/archives/6465
・Official Twitter: https://twitter.com/theater_travel
・PV: https://youtu.be/zIp1xXptbcE
・公演スケジュール
9/8 (金) 19:00~*
9/9 (土) 14:00~ 19:00~*
9/10 (日) 12:00~ 16:00~*
*原作者 須田誠によるアフタートーク付き
・協力
A-Works
須田誠
LIPS*S
GOON TRAX
Legs & Loins
ケッケコーポレーション
ベニバラ兎団
三木プロダクション
ドルチェスター
企画集団 Gotta!
宝映テレビプロダクション
・Staff
舞台監督:井草 佑一
照明:高橋文章
音響:日影可奈子
制作:森洋介
プロデューサー:小宮山薫
・企画・制作
ILLUMINUS (運営会社FreeK-Laboraotory)